ありがとう、さようなら

@ayaya05

第1話


「祝卒業」と言う文字が夕暮れに照らされて浮かび上がる。


私は校門の前で立ち止まり、もう一度3年間過ごした校舎を振り返った。


色んな思い出が浮かんでは消えていく。





ねぇ、気づいてた?


バレンタインのあのチョコは友チョコじゃなかったんだよ?


体育祭も文化祭もあなたに少しでも見てもらいたくて頑張ったんだよ?


わざわざ別のクラスにいる友だちに休み時間になるたびに会いに行ってたのも、あなたがいたからだよ?


一緒に帰ろうって言ってくれた時、実は舞い上がりそうなぐらい嬉しかったんだよ?



きっとあなたは何も知らないんだろうね。




この校門から出たら、もう二度とあなたに会うことはない。


それを考えるとすごく寂しいし、つらい。


あなたの高校生活の思い出の中に私が少しでも入っていたらいいな、なんて思うけど現実そうはいかないって知ってる。


今日気持ちを伝えたらあなたの記憶に残れるかなって考えたよ。


でもね、そんなことをしたらきっと、あなたは優しいからさ、困った顔をさせちゃうんだろうなって思うから、私にはどうしてもできなかった。




ちょっとだけ、本当にちょっとだけ期待した。


もしかしたら卒業式の前日に呼び出されたりしないかな、とか、卒業式の日に最後一緒に写真を撮ろうって言ってくれないかな、とか。


友達と遊びに行かずに最後まで教室に残り続けたのもちょっとした私の意地。


あなたが友達と校門から出ていくところも見てたけど、それでももしかしたらって思ってた。


でも、「連絡先を交換しよう」ともあなたは言ってくれなかったし、「またね」とすら私には言わなかったね。




後悔は数え切れないぐらいしてる。


バレンタインのときに他の子と混ざって渡したこと。


「おはよう」って言ってくれたのに返せなかったこと。


ほんとに些細なことだけど、もし私が勇気を出せてたらなにか違ったのかな。




でもね、1つ言わせてもらうとさ、あなたも悪いと思うんだ。


私のことを何も思っていないんだったら「一緒に帰ろう」なんて言わないでほしかった。


「バレンタイン嬉しかったよ」なんて言われたら期待しちゃうじゃん。ばか。


「髪型変えた?似合ってる」なんて彼女以外に言うなよ。このひとたらしめ。


最後にそれだけでも言えばよかったかな。


もう無理だけど。




あなたのおかげで人を好きになるってこんなにつらいんだって知ったよ。



でもさ、辛かったけど、それと同時に楽しくもあったんだ。


今日はお団子にしようかな。それともポニーテールにしようかな。


新しいリップの色を試してみようかな。


今日はうまく髪が巻けたから、「おはよう」って言ってみようかな。


こんなこと考えるのはワクワクしてすごく楽しかった。



だから私はあなたのことを嫌いになれなかった。


嫌いになれたら楽なのにって思ってもずっと嫌いになれなかった。


私もばかだね。






もういいよ。


大学生になったらあなたよりももっといい人と恋するもん。


イケメンで高身長で金持ちの男を捕まえてやる。


それでさ、もしいつかまたあなたと会ったら、彼氏との惚気話を聞かせてやるんだ。


私を手放したこと後悔しろ。


こんなに一途な私を手放したあなたが悪いんだからね。






ずっと好きだった。


3年間あなたのことしか見てなかった。







いつの日か思い出として笑って話せる日が来るといいな。








長く伸びた自分の影を背に、私は前を向いてようやく1歩を踏み出した。


少し冷たい風が私の頬をなでた。





さようなら、私の青春。


楽しかったよ。


ありがとう。







ずっと大好きでした。





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