第13話『バブルの森と悪魔の城・1』
千早 零式勧請戦闘姫 2040
13『バブルの森と悪魔の城・1』
春休みもあとわずか、朝寝を決め込んでいた貞治はハンス(ハンドスマホ)の着信音で起こされた。
――ねえ、ちょっとつきあってよ――
ツナギ(和製line)の短信を見て窓の外を見ると、もう千早が自転車に跨っている。
子どものころから思い立ったらスグの千早なのだ。
「フヮア……まだ顔も洗ってないんだぞ」
「五分待ったげるから支度して、朝ごはんは用意してるから」
自転車の前かごには紙袋とペットボトルが入っている。
「で、なんで朝から民俗資料館なんだよ」
とりあえずオカカのお握りを腹に収め、お茶を飲みながら千早に聞く貞治。その間、二人ともゆっくりではあるが自転車のペダルを漕いだままだ。
『行けば分かる……かもしれない』
ホログラムの千早は歯切れが悪い、が、祖父の介麻呂が祝詞をあげる時のように真剣だ。ちなみに父の一彦は祝詞をあげる時もω口の恵比須顔で、やや重みに欠けるので、地鎮祭などでは介麻呂が名指しされることも多い。
孫の千早はその両方の個性を受け継いでいるようで喜怒哀楽の幅が広く、小学校に入ったころは双極性障害があるのではと思われたことがある。姉の挿(かざし)、兄の彦太郎も個性的なのだが、ここでは触れない。
『九尾の狐を調べたいの』
「九尾の狐?」
金波の斎藤道三が現れた時、時間が停まっていたので貞治は事情が分かっていない。
「そんなの、ハンス(ハンドスマホ)で検索できるだろ」
『ジカに見なきゃ分からないこともあるのよ』
もう一つ二つ言いたい貞治だったが、前を走る千早の後姿は真剣そのものでバイホ(バイクホログラム=自転車用通信機)も音声だけになっている。
九尾市の民俗資料館は学校のさらに北7キロの町はずれにある。
地図で見ると九尾市の丑寅の鬼門にあたって、開発が遅れていたが、前世紀のバブルのころに企業誘致と宅地開発が同時に行われた。
その先駆けとして、九尾市の規模に見合わぬ民俗資料館が作られた。
しかし、バブルが崩壊、あてにしていた企業も来なければ、宅地も半分ほどが造成されただけでディベロッパーが撤退。今では、ほとんど森に戻ってしまい、近ごろでは正式な地名では無く『バブルの森』と呼ばれるようになった。森の中に点在する宅地がアンコールワットかインカの遺跡のようだと、時どき、廃墟や遺跡オタクが動画を撮りに来て再生回数をかせいでいる。
チェコだかポーランドだかの古城をヒントにした民俗資料館は建造から60年を超え、予算不足も相まってバブルの森の魑魅魍魎から九尾の街を護る辺境の古城に見える。口の悪いオタクやマニアは「いや、とっくに乗っ取られてる」「悪魔の城だ」と悪口を言う。
その駐車場に自転車を止めた二人は、駐車場と本館の間を流れる川を渡って受付に進み、胸のポケットから生徒手帳を取り出した。
☆・主な登場人物
八乙女千早 浦安八幡神社の侍女
八乙女挿(かざし) 千早の姉
八乙女介麻呂 千早の祖父
神産巣日神 カミムスビノカミ
天宇受賣命 ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
来栖貞治(くるすじょーじ) 千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里 日本で最年少の九尾市市長
天野太郎 明里の兄
田中 農協の営業マン
先生たち 宮本(図書館司書)
千早を取り巻く人たち
神々たち スクナヒコナ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます