第11話『ホーホケキョ』 

千早 零式勧請戦闘姫 2040  


11『ホーホケキョ』 





 三日を予定していた蔵書点検は二日で終わってしまった。


 図書委員は地味でも真面目な者が多いので、準備と指導がよければチャッチャと済んでしまうのだ。


「お疲れさま。廃棄図書の中で気に入ったのあったら持って帰っていいわよ」


 仕上げの梅昆布茶を淹れながら宮本さんが壁際に集められた本たちを示す。


 雑誌や傷んだ本は、一年分まとめて蔵書点検に合わせて廃棄される。


 紙の実体本は二十一世紀も半ば近い2040年でも健在だ。紙やインクの匂い、肌触りやページをめくる時の感触などが再認識されて、学校では一定数の実体本を備えた図書室の設置が義務付けられて、九尾高校では、その基準以上の実体本を備えている。


 千早は、色あせたり表紙が取れかけたりしている三冊を選んでリュックに入れ、もう一冊を手に取って貞治に差し出した。


「入れといて」


「オレ、要らねえぞ」


「わたしのよ、もうリュックいっぱいだから」


「ちぇ、『誤訳怪訳日本の神話』……怪しい本だなぁ」


 そう言いながらも自分のリュックにしまう貞治。


 

 梅昆布茶の香りが外へ出ても続いていると思ったら、この三日余りで学校の梅は満開になって、桜も三分咲きになっている。


 

「さあ、歩くわよ!」


「お、おお」


 今日の二人は自転車に乗っていない。


 家の鳥居を出て貞治の教会の前まで行くと、農協の田中さんに声をかけられて車に乗せてもらったのだ。貞治は帰りの足が気にかかったが「天気もいいし、帰りは歩こう」ということにしたのだ。



 ホーーーホケキョ



「あ、鶯がちゃんと鳴いてる(^▽^)!」


「え、ウグイスならゼロフェスティバルの前から鳴いてるだろ」


「ああ、これだから男は……╮(︶﹏︶")」


「なんだよ」


「こないだまでは、ケキョケキョだったでしょ」


「ええ、そうだったか」


「そうよ、何年岐阜県人やってんのよ。ねえ鶯、こないだのバージョンやってみて」


 ケキョケキョ


「ほらね」


「……両方あるんじゃないかぁ?」


「もー、大和心を知らん奴だなあ」


「ま、まてよぉ……」


 ハンス(ハンドスマホ=腕時計型スマホ)を立ち上げて鶯の鳴き声を検索する貞治。ハンスには――出始めの鶯はケキョケキョとしか鳴かない、春が本番になってホーホケキョと鳴く――とあった。


「……あ、ほんとだ」


「参ったか!?」


「アハハ、二人で歩くのって、小学校以来だな」


「あ、話題変えた。ま、いいけど」


「濃尾平野は箱根の西じゃ一番の平野だからな、こういう季節は散歩するのにちょうどいい」


「ああ、それは言えるよねぇ……フフ」


「なんだよ」


「小さいころ、犬山城見に行こうって帰れなくなったことあったでしょ」


「あ、ああ……」


「橋渡ったところで、しゃがみ込んだら動けなくなったんだよね」


「そうそう、運よく車で送ってもらったんだよな」


「うん、教会の総代さんだったよね」


「え、神社の総代さんだろ?」


「え?」


「ん?」


 ほんの幼稚園ぐらいのころの思い出。


 犬山橋のたもとでへばっているとワゴン車が通りかかり「どうしたのかなあ? あ、怪しい者じゃないですよ、総代ですよ(^_^)」と優しい笑顔で言われたので、二人ともそれぞれの神社・教会の総代だと思っていたのである。


 総代さんは「お家にはナイショにしておきましょうね」と言ったので、晩ご飯に遅れることも無く帰れたこともあり、二人はずっと内緒にしていた。


「ああ……アハハ」


「昔のことだからね」


 まあ、なにかの思い違い。


 そう思った時、また、あの音がした。



 ピシ!


 

 

☆・主な登場人物


八乙女千早          浦安八幡神社の侍女

八乙女挿(かざし)      千早の姉

八乙女介麻呂         千早の祖父

神産巣日神         カミムスビノカミ

天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役

来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子

天野明里           日本で最年少の九尾市市長

天野太郎           明里の兄

田中           農協の営業マン

先生たち         宮本(図書館司書)

千早を取り巻く人たち

神々たち         スクナヒコナ


 

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