第9話『図書館司書の宮本さん』

千早 零式勧請戦闘姫 2040  


09『図書館司書の宮本さん』 





 キンコーンカンコーン キンコンカーンコーン……



 春休み中なのだから焦る必要もないのだが、チャイムが鳴るとペダルを踏む脚に力が入ってしまう千早だ。


「ハハハ、パブロフの犬だな」


「うるさい、いくよ!」


 ガラガラの駐輪場に自転車を止め、昇降口で上履きに履き替えると図書室を目指す。


 九尾高校の図書室は独立した木造二階建てだ。


 昭和時代からの校舎を建て替えるにあたって、それまで校舎の一部でしかなかった図書室を独立した建物にしたのが三年前。


 先代市長の肝いりで、旧制女学校当時がそうであったように独立した図書館になった。


 独立した建物なので、図書館と呼ぶのが正しいのだが、生徒の多くは小学校以来呼び慣れた「図書室」と呼んでいる。


「あら、早いわね」


 司書室のガラス越しに司書の宮本さんが顔を覗かせる。


「え、9時からじゃないんですか?」


「連絡いってなかった?」


「図書館便りには9時……だったよね?」


 貞治がポケットからクシャクシャの図書館便りを出すと――令和22年度蔵書点検 3月25日 午前9時~12時 各クラスの図書委員は図書館に集合すること――と書かれている。


「ああ、あとで時間変更のメモ回したんだけど……」


「「ああ……」」


 揃って溜息を漏らす千早と貞治。


「こういうとこだけは気が合うんだからなあ……」


 二人の担任、右田と左藤は仲が悪いが、こういう点にルーズだということでは一致している。


 くそぉヽ(`Д´#)ノ   またかぁ(`m´#)


 そう思っても口には出さない。


――こういう局面であからさまに文句を言わないのは、お互い神社と教会の子どもであることだけが理由ではないのかもね――


 宮本さんは思うのだが、彼女も口には出さない。そのかわり、熱い梅昆布茶を淹れて蔵書点検のだんどりを説明する。


「……という感じで、カード目録と照合して欲しいの」


「けっこうな量ですねぇ」


「うん、でも、図書委員全員でやれば、ひとり三日で800、一日じゃ300にもならないから楽勝よ。とりあえず、総記と哲学から始めてもらえるかなあ。あ、梅昆布茶飲んでからでいいからね」


「はい」「らじゃー」


 梅昆布茶と、お茶うけのクッキーをお腹に収めると、カードボックスから引き出しごと引き抜いて二人は作業にかかった。


「総記ってしれてるんだなあ」


「哲学は引き出し二つ分あるよぉ……よっこいせ」


 図書館の蔵書は二十一世紀に入ったころには電子管理されるようになり、貸し出しも返却もポスシステムなのだが、九尾高校では昔ながらのカード目録も併用している。


「重さとか見た目の量で実感できるからねぇ」


 自分も文学の目録をチェックしながら説明してくれる宮本さん。


「ああ、たしかに……」


 宮本さんがとりかかっている文学はカードボックスの実に半分を占めている。


「よいしょっと……」


 宮本さんは、模範を示そうと引き出し三つを重ねてテーブルに持って行こうとした。


 ガツン


 あ!?


 狭い通路を抜けようとして、引き出しの一つが書架に当ってしまった。


 ガッシャーン!


 落した引き出しの一つは掛け金が外れてしまい、数百枚のカードが床に飛び散ってしまった!




☆・主な登場人物


八乙女千早          浦安八幡神社の侍女

八乙女挿(かざし)      千早の姉

八乙女介麻呂         千早の祖父

神産巣日神         カミムスビノカミ

天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役

来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子

天野明里           日本で最年少の九尾市市長

天野太郎           明里の兄

田中           農協の営業マン

先生たち         宮本(図書館司書)

千早を取り巻く人たち

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