第8話 体育祭当日の悲劇

(そろそろ大玉転がしが始まっちゃうな……急がないと)


匠がトイレから席に戻ろうとしていると、車椅子で運ばれている陽菜を目にする。


「陽菜?」


陽菜も声に気づき、匠の方を見る。


「匠君……」

「車椅子に乗ってるけどどうしたの?」

「実は足を怪我しちゃって……」


車椅子を動かしていた保健室の先生が匠に指示をする。


「大玉転がしには出場できないから誰か代わりに出場してくれないかクラスの皆に聞いてくれる?」

「わかりました」


匠は走ってクラスの席に向かう。


(僕のせいだ……僕が軽い気持ちで出たいって言ったから……)


匠は走っていた足を止め、立ち止まる。


(僕のせいなんだから……僕が……)



保健室に運ばれた陽菜は、先生に湿布を貼ってもらった。


「これで大丈夫だけど競技には参加しないでね」

「わかりました。ありがとうございます」

「一人で歩ける?難しいなら保健委員呼ぶけど」

「大丈夫です」


陽菜は足の痛みを感じながらも、歩いていく。


(そういえば大玉転がし……私の代わりに誰が出てくれたんだろう?後でお礼を言われないと)


陽菜がアリーナを見ると、目を見開いた。


(噓……どうして⁉)


陽菜が驚いた理由は……匠がアリーナに待機していたからだ。


「よし。次に出る人は前に出ろ」


匠は前に出て、大玉の前で待機する。


「位置について……よ~いドン!」


一斉にスタートし、大玉を転がし始める。


(結構大きくて思い通りに動かすのが難しいな……)


匠が転がすことに苦戦していると、次々と抜かされていく。


(まずい……早く巻き返さないと……)


匠は大玉を調整して、走り転がしていくと一人抜かす。


(よし……この調子で巻き返す!)


匠は更にスピードアップして次々と抜き返し、一位でゴールした。


(はぁ……はぁ……やった……)


匠は一位でゴールしたことに喜びを感じていた。



席に戻ると、クラスメイトたちが匠の周りに集まった。


「凄いじゃん相田!一位になるなんて!」

「そんなことないよ」

「俺たちも頑張ろうぜ!」


水筒の水を飲むと、陽菜が心配そうに声をかける。


「匠君……ごめんね。その……大丈夫?」

「大丈夫だよ。そんなに走ってないし」

「本当?」

「うん。今もこうして普通に話せてるでしょ?」

「ならいいけど……本当にごめんね」


陽菜は頭を下げる。


「大丈夫だから!それより陽菜、足大丈夫?」

「うん。これ以上出場できないけど……」

「そっか。無理しないでね」

「ありがとう……」

「ちょっとトイレに行ってくる」


匠が席を離れると、よろけて壁にもたれかかる。


(あぁは言ったけどちょっと無理しすぎたかな……)



玉入れの時間になると、1年生たちがクラスごとに指定された場所に集まる。


「それでは!よ~いドン!」


1年生たちが、玉をネットに向かって投げ始める。

匠もネットに向かって玉を投げる。


(入らない……でも楽しい……!)


玉入れが終了すると、体育委員がネットに入った玉を数える。


「……ということで5組の勝利です」

「クソ~惜しかったなぁ~」

「でも結構入ったよな」

「次は頑張ろうぜ!」


匠はフラフラしながら退場する。


(おかしいなぁ……あんまり激しく動いてないのに……大玉転がしの疲れがとれてなかったのかな?)


その様子を見た由香が声をかける。


「相田君大丈夫?保健室行く?」

「平気……ちょっと疲れただけだから」

「そう?」


由香はフラフラ歩く匠を心配そうに見つめる。


「ねぇ……やっぱり保健室に……」


すると、匠が目の前でバタリと倒れた。


「相田君⁉」


由香が匠に何度も声をかけるが、反応がない。


「誰か!先生呼んで!」

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