お夢様

取葉。【トリバ】

お夢様

「ペンとメモ、手帳と…。」

 私•赤崎由紀は取材に行く準備をしていた。

 私はとあるオカルト雑誌の記者として、ある店の噂を聞きに行く準備をしていた。

「…よし、準備終わり。行こう。」  

 そうして私は準備を終わらせて今回取材を行う店に着いた。店は少し煤けていて、扉の前に看板が置かれている。看板には「怪屋•小町」と書かれている。

(見るからに怪しいな…)

 そう思っていたとき、店主が店から出てきた。

「どうも、ここの店主の羽黒と申します。」  ぱっと見た感じ、年齢は20代前半、見なりもかなり綺麗で、正直ここの店主とは思えなかった。

 そのまま店主をしばらく観察していると、 「どうも、ここの店主の羽黒と申します。本日はよろしくお願いいたします。」

 そう店主挨拶されて私は我に返った。

 兎にも角にも、ここに来たのは取材をするため、そう思い直して、私は店主に挨拶を返した

「どうも、私【週刊カルテット】の記者の赤城と申します。こちらこそ本日はよろしくお願いいたします。」

 そして私と店主は店に入った。店には何も無かった。私はこの瞬間頭が真っ白になったが、次の店主の一言でそれは安堵に代わった。

「私、防犯上の理由でものを出してないんです。」  

 正直ホッとした。収穫なしは編集長に愚痴の吐け口にされてしまう。それは絶対に避けたい。

「何か今の悩みってありますか?」

 そういう店主の一言が聞こえて私はまた集中を解いて質問に答えた。

「でしたら、もしあれば悪夢を見れなくする商品ってありますでしょうか…。」

 私はこの頃悪夢を見続けていた。そのせいで私は少し前からずっと疲労感を感じていた。

 それを聞いた店主は店の中に入ると、大きめのペットボトルを持ってきた。その中には何かの液体が入っている。

「この商品がおすすめです。これはお夢様と言います。コップ一杯飲んで眠れば、夢を見ずに眠ることができます。約束さえ守れば…ですけど。」

 そこから数分ごと会話をして、私は自宅への帰路についていた。助手席には、紙袋…「お夢様」の入った紙袋が入っている。あの後睡眠欲に負けた私はあのお夢様を購入し帰っていた。

 家に着いた後、私は早速ペットボトルを手に取る、ペットボトルの側面には、 「一回百ミリ飲むだけで、貴方の夢を消し去ります。ただし、三日に一回以上の摂取は禁ず。」  と書かれていた。

 こんな得体の知れないもの、本当は飲まない方がいいのであろうが、 (一度でいいから、まともに寝たいなあ…)  そんな欲と、この商品への興味が、私の決断を揺らがせた。

 数分の空白の後、私は台所計量カップを持ってきてお夢様を注いだ、そしてそしてそれを口に含んだ。 「…水だ、これ」

 騙された、と思った。よく考えれば確かにそうだ。あんな店に、本物が置いてあるわけがない。そう思った私は店主への怒りと、悪夢への興味を抱きながら眠りについた。

「…マジで?」

 目を覚ました私は、目の前の景色に驚愕していた。朝日が昇っている。一昨日までは悪夢から覚めても月が部屋を照らしていたのに。

「本当だったんだ…」

 その日から、私は5日に1回、お夢様を飲むようになった。悪夢を見ずに、朝が来る、そんな毎日を私は満喫していた。  お夢様を信頼した私は、また羽黒の店に行き、お夢様を大量に購入した。

 そんなある日の夜だった。その日は飲み会があって、酒を浴びるように飲まされた後だった。

「腹…痛…」

 私はペットボトルに入った飲み物と胃薬を大量に飲んだ後、倒れるように意識を失った。

 次に目を覚ました時、私は後悔することになった。私は残っていたお夢様約500mlを飲み干してしまった。後悔してももう遅いと思い、そのまま会社に行った。

 その日から、私の体は急激に悪くなっていった。

 お夢様を大量摂取した三日後から頭痛と倦怠感が訪れた。頭を揺らすような痛みが走り、私は仕事をこなせなくなっていった。  …今、私は精神病院にいる。倦怠感が、私の食欲を奪ったからだ。今や骨に皮がついたような身体になってしまった。

 私は少し察している…睡眠不足の原因はお夢様だと。  「お夢様」について羽黒は、「夢を喰う薬」だといった。

 人間というものは夢を見て記憶を整理する。お夢様は、それを奪うことで、人を睡眠不足のような状態にさせるのだ。

 5日に1回程度なら人は眠らなくてもあまり支障はない。でもそれが毎日だったら、人は死ぬだろう。

 そう考えていると、私は段々と眠気を感じ始めた。

「…ここまでか。」

 そう思い、私は目を閉じた。

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