マッチングしたあの人は、詐欺かもしれない、遊びかもしれない、でも気になるからメッセージを送ってしまって夢を見る
坂東さしま
第1話 あなたはアイドルグループにいそうな詐欺の女
ロマンス詐欺、投資詐欺、FX詐欺、暗号資産詐欺、デート商法、ぼったくり高級店……。
俺はマッチングアプリにはびこるあらゆる詐欺を経験した。
といっても過言ではない。詐欺られ王に俺はなってしまった。それでも「こーいう女は少数。ほとんどの女性は清く正しく俺を待ってるはずだ!」と信じて一年が経った。正月休みの最後の昼時。俺は出かけることもなくベッドの上で寝転びながら、優し気な雰囲気の女性たちに「いいね!」を押す。
引っ掛かりまくった俺だが、一般的な恋活・婚活女性ともマッチングしたことはある。もちろんある。詐欺勢ばかりじゃない。
ただ、悲しいかな。普通の女性とはメッセージのやり取りが続かない。3日もすればフェードアウト。自覚はないがメッセージ下手らしい。なんだか盛り上がらない、盛り上げられない。しばらくして俺から、
リュウ:もしかして最近忙しいんでしょーか?僕も忙しくて。でもやっとひと段落ついてこれからサウナ行ってきまーす!
などと送るも未読。
詐欺の女性たちは仕事なので、つまらん俺のメッセージにも「素敵!」「すごーい!」「センスある~」など合コンさしすせそを駆使して、腕を絡めてお店に連れて行くような雰囲気でLINEに誘導してくれる。
そんなもんだから、俺と飽きずにやり取りする女性は「あー、また詐欺かあ」と落ち込む日々だった。そもそも、俺にいいねを送る時点で詐欺、ということも分かりかけてきた。いや、理解した。
家の壁を背に撮った、地味なメガネスーツ顔がトップ画面。自撮りはむずい。どう撮っても、何千枚撮ってもベストショットは生まれなかった。33歳、身長169.7センチだから四捨五入して170と載せている。中小企業の会社員、収入は平均よりちょっとまあ、一応大卒だけどFはいかないかなEランク、体型はお腹が出はじめたし、その他スペックにも特筆すべきものはなんらない。自己紹介には何を書いていいか分からず、あたりさわりなく手短にまとめた。
『初めまして。リュウです。都内で会社員やってます。茨城出身で今は千葉に住んでます。休日はサウナかネトフリで話題のドラマやアニメ観てます。漫画も好きです!連絡はまめな方です!興味あったらいいね、よろしくお願いいたします!』
特技は15時間眠れること、けん玉(大会優勝経験あり)。なんだかのび太みたいだ。いや違うね、あいつは可愛くてやさしいしずかちゃんっていう、将来を約束された女子が側にいんだよ。一軍野郎め、大嫌いだ。俺に可愛い子供が生まれても、春の映画なんて絶対観に行かねぇし、テレビも見せねぇかんな!くそくそ、のび太が一軍なのに、どうして俺は。
いや、プロフィールが悪いのは自分がよく分かってるんだ。真剣に婚活してるとは思えないよな。分かってるんだよ。直せよほんとマジ。でも、その簡単なことができない。ネットから拾ったテンプレやChatGPTに自己紹介を書いてもらって、プロに写真撮ってもらえばいいのに。
アプリだけに頼っているわけじゃあない。街コンや合コンにも行ってるさ。それに、親しい友人や同僚に「良い人いたら紹介してくれ」と伝えてある。が、一度も紹介されたことは無い。中学からの付き合いであるケン曰く、「お前いいやつだけど、紹介して破局されたら気まずいじゃん。やだよ」とのこと。
一理ある。男女の相性と友人としての相性は違うからな。
例えば俺が友人Aを、職場のB子に紹介したとする。Aは気がきくし優しいし友人からの評判もいい。俺も好きだと思える友人だ。有名大学卒、上場企業で給料もいい、顔もいい。身長は179。そして読書が趣味という物静かなA。彼には、B子のような粛々と数字を会計ソフトに打ち込むような人が、地味だがよく見ると顔が整っているような隠れ美人がいいはず、と見込む。実際にうまく結婚まで行ったとしよう。わー良かったおめでとう……と思いきや、結婚した途端にAの裏の人格が現れ、Bに暴行、不貞行為、育児放棄、さらに借金が判明……となっちまったら? 責任は俺か? ナコウドの俺か!? 俺が紹介しねければ、そもそも俺という人間が存在しねければ、悲劇は起こらんかったんか!? 暴行にかかった医療費も養育費もまとめて俺が全額払うよー!!!
無理だ、紹介はよぐねえぞ。
やはり、結婚相手は己の手で探し出すに限る。そうすれば責任は自分。友人に迷惑はかけない。
などという歴史を背負って押したいいねが、返ってきた。時間は正月休みが終わろうとする夜の11時すぎ。
実を言うと適当に押しまくりすぎて、最近は誰に申し込んだかさっぱり。返ってきた女性の写真を見ても、押したかどうか覚えていない失礼さだった。
返してくれたのは、みらいさん。年齢は俺より一つ上の34歳。ふわっとした目元にはピンクのアイシャドウ。目鼻立ちは整っており、どちらかと言えばキレイな顔だ。大量系アイドルグループにいそうなレベル。ミス慶応にはなれないけど、ミスK高校には、K高校? すまん、失礼だった。仕事はSE。趣味はハンドメイドとヨガ。出身は俺と同じ茨城県で現在は都内在住。身長は163センチ。体型は痩せ型。髪は肩より下。お友達と映る写真からすると、お姉さん系の服装だ。
ベッドの上で正座しスマホを眺め、俺はつぶやく。
「詐欺、だな。一般人の中では美人系でスタイルも悪くない。写真は加工してなさそうだが、そんな人がいいねを返す。詐欺だな。でも」
一緒に掲載されている猫の写真。みらいさんが猫を抱っこしているのだが、この猫への愛を感じた。猫愛だけは真実だと信じたい。俺も猫は好きだ。猫が好きなら、ひどい詐欺師じゃないかもしれない。うーん理屈にもなってないが、軽い詐欺、いや軽くても詐欺はダメな。
太田龍、詐欺だと分かってても……メッセージ送っちゃいます。
詐欺だからメッセージ返してくれるんだろうなぁ。
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