異世界に召喚されていた日本人大魔導士、転生先がダンジョン出現で滅亡した未来の故郷だった
雨丸 令
第一章
第1話
――深夜。魔導科学技術研究院。第1研究所。
ずるずると俺は冷たい床に座り込む。腹部を襲う激痛と、急速に血の気が引いていく嫌な感覚。傷口を抑える手には、べっとりと真っ赤な液体が付着していた。
――まさか信頼していた部下に剣で刺されるなんてなぁ。
「は、ははっ。やったぞ! 異世界人の一人を始末してやった! どうだ醜悪な異世界人め!? 偉大な父上を殺した罪人っ! この――――が打ち取ったぞ!!!」
座り込んだ俺を見下ろして嗤う部下。その顔には見覚えがあった。
……いや。思い出した、というべきか。かつて俺達が滅ぼした大国、グランデリア王国。そのグランデリア王国の王の息子――つまり王子が、確かこんな顔だった。
影が薄すぎて、今の今まで存在していた事すら忘れていたが。
復讐する為に今まで俺の下にいたのか? ……だとしたらご苦労なこった。雇ったのは確か5年前。それから今まで、一切尻尾を出さなかったんだからな。例え俺を油断させる為だとしても、その根性は褒められるべきもの。……詰めは甘いけどな?
「待っていろ! 今トドメを刺してや「“火よ”」ぎゃぁああああ!?」
王子が派手に燃え盛る。人間松明だ。
「なっ、何故魔法が使える!? 貴様を刺した剣には“魔力阻害の呪い”が掛けられているんだぞ! 高位魔導士すら魔法が使えなくなる強力な呪詛だ。幾ら貴様に魔導士としての実力があろうと、この呪いに犯されたまま魔法が使える訳が……っ!?」
「……阿呆が。お前の矮小な物差しで測るんじゃない。俺は大魔導士。世界最高の魔導士の一人だぞ。たかが呪いを喰らった程度で、魔法が使えなくなる訳ないだろ」
まあ……多少使い辛くなったのは認めざるを得ないが。
「けどお前を殺す程度の事は出来る。――死ね」
「ま、待てッ! やめろ!? 私を殺すと偉大な血統が途絶え――!?」
「――ぎゃぁああああああああっっっ!?!?!?」
完成したのは人型の炭。焦げ臭い匂いが鼻につく。
「はぁ、はぁ。……くっ」
傷口が酷く痛む。見れば、刺された箇所から“黒”が広がっていた。
「“呪殺の呪い”、ね。魔力阻害だけじゃないのかよ。まったく、どんだけ俺達を殺したかったんだ。前金だけで数十億は要求されるって噂のイカレた禁呪だろ、これ」
しかも成功報酬で更に数百億は請求されるって話だ。
その代わり呪いが成立した場合の対象死亡率は脅威の100%。一度受けてしまえばどれだけ足掻こうと確実に死ぬ最悪の呪い。――故に禁呪と呼ばれている。
その禁呪が今、俺を殺そうとしてる。悍ましい“黒”の侵食と共に。
「……あー。死ぬな、こりゃ。助からねえわ」
治癒魔法が使えない。魔力が阻害され発動まで持っていけない。治癒魔法は繊細な魔法だ。攻撃魔法と違って明確なイメージと高い集中力を必須としている。怪我の痛みと魔力阻害。そして貧血も重なり、無理矢理発動する事も出来なくなっていた。
助けも期待出来ない。昼なら可能性もあったが、今は夜。月明りすらない。爆発の危険がある研究所は、市街地から離れた場所にある。故、建物近くに人通りはない。
「はは。休む暇のない人生だったなぁ……」
高校二年の時に学校ごとラノベみたいに異世界に召喚され。
異世界だとはしゃいでたら魔族との戦争に参加させられた。自分達の生存を懸けて死に物狂いで襲い掛かってくる魔族。多くの友人や知り合いがここで死んだ。
その次は俺達を呼び出した王国の奴ら相手に反乱戦争。
圧制に耐えかねた別の異世界人が先導した戦い。自分達を奴隷扱いしてきた奴らとの戦争だ。仲間達の士気は高かった。俺も王国の奴らをこの手で殺し続けた。
そして共に戦った仲間達と新たな国を作り上げた。
様々な異世界の知識を結集し作り上げた国。異世界国家。未熟な部分はまだまだ数多い。成熟した国々と比べれば法整備も不十分。――だが熱意がある。何処の国にも負けない、強い熱意が。この国はいずれ最高の国になる。俺はそう信じている。
故郷への帰り方を探して旅をした事もあった。
結局見つからなかったが。手に入れたのは古代の魔導士が残した転移魔法。使うには行きたい場所の座標が必要だった。帰れると期待していた俺は酷く絶望したな。
結婚もした。ずっと傍に居てくれた仲間の一人と。
プロポーズされた時は戸惑った。全然そういう素振りがなかったから。けど一度見せてからは猛アタック。怒涛の勢いに根負けし、彼女の想いを受け入れた。結婚生活は幸せだった。毎日彼女の熱に焼かれ続けてる。もうすぐ子供も生まれる予定だ。
「辛い事も多い人生だが、振り返ってみると中々悪くない。激動ばかりでも、得られた物も確かにある。……まあ、もう一度同じ人生を生きたいとは全く思えないが」
特に異世界召喚の下り。ここから俺の苦難が始まったからな。
あれ避けようがないんだよな。召喚される前の俺は一切魔導技術を学んでいなかったし。そもそも元の世界じゃ、魔法なんて空想の産物でしかなかったから。
避けるには学校をズル休みする必要がある。が、当時の俺にそんな度胸ない。
「これが俺の終わりか。……ま、こんなもんだよな」
当然納得はしていない。やり残した事など山のようにある。
だが――後悔はない。トラブルばかりに恵まれた人生だが、それでも精一杯駆け抜けてきたから。後を託せる仲間もいる。子供もすぐに生まれる。あと半月もない。
「……悪いな、みんな。俺は一抜けみたいだ。後は任せるぞ」
段々身体が冷え、意識も朦朧とする。
血を流し過ぎたのだろう。身体の感覚も、もはやほとんどない。完全に意識を失うのは時間の問題。逆に何故まだ意識があるのか、自分でも分からないくらいだ。
「――――、みんなを守ってやってくれ。――――、あまり他の国を絞り過ぎないようにな。――――、国の成長はお前頼りだ。……そして――――。国の事を頼む」
曖昧な意識。それでも言葉を紡ぐ。
「……――――、愛してる。――――、どうか幸せになってくれ」
“――じゃあな”。
その言葉を最後に、身体は完全に言う事を効かなくなった。
何も見えず、何も聞こえず。痛みすら失われ。ただふわふわと雲に乗っているような感覚だけがあった。何も分からないまま、俺はその感覚に身を任せ――
――暗転。俺……五十嵐トウカは、死んだ。
………………………。
………………。
………。
。
――そして。
目の前には見覚えのある摩天楼の群れ。東洋系の顔立ちをした人々。地面に敷き詰められたアスファルト。……なにより、そこかしこで使われている懐かしい文字。
「……って、今度は転生するのかよ!? しかも日本に!」
召喚の次は転生らしい。嘘だろ? 俺の人生、こんな事ばっかりかよ!?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
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