ハッピー・ひなまつり・バースデー

こむぎこちゃん

第1話

「はよー陽菜。誕生日おめでと」

 私が家を出ると、家の前で待っていた幼なじみ、夏樹にお祝いされた。

「あーうん、ありがとう」

「なんだよ、浮かない顔して」

「……なんで私の誕生日ってひなまつりなんだろうなーって」

「それ、毎年言ってね?」

 あきれたような夏樹。

「だって、ご飯が毎年ちらし寿司ばっかなんだよ!? お菓子だって、ひなあられとか菱餅とか和菓子ばっかり。別に嫌いって訳じゃないけど……」

 私は早口でまくし立ててから、すうっと息を吸いこむ。


「私もっ、誕生日にケーキとか食べたいっっ!」


 私の心の叫びに、夏樹が苦笑いする。

 笑わないでよね、私の中ではかなり深刻な問題なんだから。

「夏樹さ、そういえば小学校卒業してから1回も私に誕プレくれたことなかったよね……?」

 じとっと見ると、夏樹は焦ったようにいいわけを始める。

「え、いやだって、男子が女子に誕プレ渡すとか普通ないだろ。そんな……付き合ってるわけでもないのに」

 最後だけなぜかもごもごと言う夏樹。

「私にケーキ買ってきてよ! 5年分の、高いやつ!」

「はあ? なんでだよ」

「いーじゃんケチ」

「はいはいおれはケチだよ」

 そう軽くいなすと、夏樹は話題を変えた。


  * * *


 おなか、すいたなぁ……。

 部活帰り、信号を待ちながら私はぐぅぅと鳴るおなかを押さえた。

 コンビニで何か買っちゃおうかな。

 新作スイーツ、すごくおいしそうだったんだよね。いちごプリンの上に桜の形でクリームが乗ってるやつ!

 ちょっと高いと思って手が出せてなかったけど、誕生日くらい……。

「よっ!」

「ひゃっ!? ……ちょっと、びっくりするじゃん夏樹!」

 突然肩をたたかれ、私は姿を確認せずにその名前を呼んだ。

「悪い悪い、それより……これ、やる。ケーキではないけど」

 そう言って夏樹が取り出したのは。

「あ、それっ! 私が食べたかったやつ!」

「だよな。陽菜、昔からプリン好きだし」

 そう言って夏樹はにっと笑う。

「ほんとにいいの!?」

「誕生日だからな。そこの広場で食って帰ろーぜ」

「うん! ありがとう、夏樹!」

「……別に」

「あ、もしかして照れてる?」

「うるせー」

 私たちはじゃれ合いながらベンチに並んで座る。

 一緒に食べたプリンは、甘酸っぱい味がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハッピー・ひなまつり・バースデー こむぎこちゃん @flower79

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ