ひな祭りに纏わる怪談

おもちゃ箱

本文


 彼女が住む地域では桃の節句には雛人形を飾らないそうだ。その代わりに桃の節句になると「人形流し」と呼ばれるものをするそうだ。


 「人形流し」というのは川に人形を流して一年の厄を一緒に流すというものだそうだ。そのまま川に流すと不法投棄になるので下流ですべてを回収して最終的には全部燃やしてしまうそうだ。


 そんな「人形流し」に使われる人形は「厄人形」と呼ばれるそうで「人形流し」が終わると新たに用意して次の年の「人形流し」まで飾るそうだ。


 厄人形は人形流し用の特別なものだそうで基本はオーダーメイドかお金がなければ商店街で売られているものを買うのだそうだ。


 彼女は綺麗な厄人形を欲しいと思っていたが普通に売られているものは量産型で可愛いものなどなく、かといってオーダーメイドで作ってもらうようなお金もなく、半ば諦めていたそうだ。


 厄人形は遅くても桃の節句から一週間以内に用意することになっていてどうにか今年のを決めないと、と彼女は思いながら街の中を歩いていたそうだ。その時彼女は悩みながら歩いていたせいか気づけば普段は歩かないような街外れに来てしまったそうだ。


 彼女は引き返そうと思ったところでふと一つの露店商に目が止まったそうだ。遠目にだが人形らしきものが置いてあるのがわかったそうだ。


 彼女は気になってその露天商に近づいて売られているものを見てみるとそこには見事な人形が売られていたそうだ。それは彼女が想像していたような可愛らしい人形だったそうだ。


 彼女は露天商の人にその人形について尋ねてみるとどうやら人形流し用の厄人形だそうで趣味で作ったものだそうだ。中々の出来なのに量産型と大した価格の違いもなく、彼女はすぐにその人形を買うことを決めたそうだ。


 彼女はお金を払い、厄人形を袋に入れてもらいうきうき気分で帰路についたそうだ。家に帰ると母にその人形はどうしたのかと聞かれたが露天商から買ったなんて言ったら怒られそうだったので傷のある物を友人から安く譲ってもらったと話したそうだ。


 彼女は人形を棚に飾って、次の日早速友人たちを家に呼んで早速その人形を自慢したそうだ。みんな羨ましがったので彼女はとても気分がよかったそうだ。その友人の中でもその人形を熱心に眺めている子がいて帰り際に彼女に聞いてきたそうだ。




「これ、どこで手に入れたの?」




 その表情は真剣でこれがオーダーメイドでないことを確信しているかのような質問だった。そのときは彼女はどうにか質問をはぐらかして答えなかったそうだ。その友人も深く聞くつもりはなかったようで食いさがるようなことはなかったそうだ。ただ最後に「気を付けてね」と言われたのは少し不気味だった。


 それから少しして彼女に不幸としか思えないことが何度かあったそうだ。最初は小さな出来事でトイレに入ったら紙がきれていたりとか、自転車に鳥の糞をかけられたりくらいだったのだが日に日に不幸がエスカレートしていくように感じたそうだ。


 父が事故に遭って入院したときこれは何かあるかもしれない。そう思い始めたそうだ。そんな折、一人の友人が彼女のところを尋ねてきたそうだ。


 それは厄人形をどこで手に入れたのか聞いてきた子で大事な話があると切り出してきたそうだ。彼女は今まで知らなかったがその友人は神社の神主の娘だそうで人形流しの後厄人形をお焚き上げすることを受け持っている神社の神主がその友人の父だそうだ。


 そうしてその友人は改めてその人形をどこで手に入れてたのか聞いてきたそうだ。そしてこう付け加えたそうだ。




「川で拾って来たりしてないよね」




 どういうことか詳しく聞いてみると流された人形の中には岩や気に引っかかったりして下流に流れないものがあるそうだ。毎年ちゃんと川を探してそういった人形を回収するそうだがたまに見つけられずに誰かが拾ってしまうということがあるそうだ。


 それを聞いて私はそういうものではなく露天商から買ったことを友人に伝えたそうだが逆に友人は表情が厳しくなったそうだ。


 それからその露天商について根掘り葉掘り聞かれたそうで思い出しながら彼女はそれに答えていったそうだ。一通り質問を終えると友人は真剣な表情でこう言ったそうだ。




「その厄人形はおそらく転売品だよ」




 どうやら彼女が出会った露天商は川で拾った厄人形を売っていた人だったようで人形に溜まった一年分の厄が彼女に不幸として降りかかっているのだそうだ。よければ預かると友人が申し出てくれたので彼女は泣く泣くその人形を手放したそうだ。


 それからは不幸な出来事がピタリとなくなり、父の容態も回復していったそうだ。


 彼女はそれからは人形を露天商など怪しい場所で買うのは避けてちゃんとした店で買うようにしているそうだ。そして最近お金を貯めて念願のオーダーメイドで人形を作ってもらったと嬉しそうに彼女は語ってくれた。


 皆さまも物を買うときはちゃんと出所を確かめてから買うといい。


 今回はここまでとしよう。それではまた会おう。

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