自殺未遂に失礼だ
紫野一歩
自殺未遂に失礼だ
幼馴染が首つり自殺をするという。
「でも首吊りって、お腹の物が全部出ちゃうらしいよ。垂れ流し状態で」
「……それはなんか嫌だな。恥ずかしい」
死んでしまったら恥ずかしいも何も無いのでは、と思うのだけれど、彼には彼の美学があるらしい。理解出来ないけれど尊重はしようと思う。
「アサリの砂抜きみたいに、取り敢えず何も食べなければいいんじゃない? コオロギとかも糞出しとかもするらしいし、基本なのかも」
私が調べた事を教えると、彼は少しだけ渋い顔をした。自分の事を食材として見ているのではないか、と心配になったらしい。安心して欲しい。私は君を食べるつもりなどない。
試しに二日間絶食をした幼馴染だったけれど、それが想像以上に辛いのだという。元々何かを食べる事が好きだったのに、どうして死ぬ直前に美味しい物が食べられないのか、と怒り出してしまった。
「じゃあ美味しい物をいっぱい食べて死ねばいいじゃない」
「そうしたら尻から全部出ちゃうんだろ?」
非常に面倒くさい人だ。さっさと死ねばいいのに。
「いっそ餓死するのはどうですか? 餓死というのが絶食した瞬間から始まる緩やかな死だとすれば、名目上は餓死直前に美味しい物を食べていた、という事になりますよ」
私の主張に幼馴染はギリギリ納得したらしく、餓死で死ぬことに変更したらしい。
しかしそれがなかなか上手くいかない。
絶食して一日も経つと、我慢出来ずに何かを食べてしまうらしいのだ。
自殺をしようとして三ヵ月が経った。
彼は今も毎日三食、自殺未遂しているらしい。
そんなのだったら私もしている。今日は二食だったので朝から十時間、自殺未遂をしたところだ。彼よりも死に近づいている。
幼馴染は相変わらず幸せそうにご飯を食べている。
いつ死ぬかわからない、という一点においてのみ彼の自殺は始まっているようだ。
私はそれを最後まで見届けるつもりである。
自殺未遂に失礼だ 紫野一歩 @4no1ho
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