第2話

 しばらくタナスを交えて勝負していた貴族達は、彼の引きの強さに度肝を抜かれていた。


「またタナスの勝ちか! 凄いなお前!」


「いえいえ……運が良かっただけですよ」


 その後もタナスが勝ち続け、気付けばルシアノの手元の賭け金が尽きてしまっているではないか。しかし、誰もが潮時かと思われる場面でも、相当酔っていたルシアノは一歩も引こうとしない。


「いやいや、こんなところでお開きにはさせまいぞ〜! 勝ち逃げなんぞ許さ〜ん!」


 舞い上がる彼に対し、タナスがボソッと「賭けるお金はどうされるのですか?」と囁くように尋ねる。


「そんなもの何でもよい! 負けたらいくらでもくれてやる! 続けるぞ!」


「……本当に宜しいのですか?」


「男に二言はなーい! ――」


 一瞬――タナスが浮かべた不穏に満ちた笑みを、隊長だけは見逃さなかった。


 しかし、やはり負けを取り返そうと大穴に賭けてしまったルシアノが敗れ、タナスが勝利すると。


「くぁ〜、今日は完敗だ……負けを認めよう! タナス、お前には好きなもんをくれてやる!」


 両手を挙げてそうルシアノが微笑む。するとタナスは、席から立ち上がってハットを被った。


「では、カリナ様のお腹にいるお子様から“寿命”を頂くことに致しますか」


「……何だと?」


「実は私、冥王の化身なんですよ」


 一体全体何を言い出すんだ、と思えたタナスに対して「何馬鹿なことを言っている……」とルシアノは怪訝な顔をして、嘲笑うかのように信じなかった。

 ところが、タナスが離れた席に座る一人の男を見遣ると。


「あそこの席に座るアーロン卿は、一週間以内に病で倒れて命を落としてしまうでしょう。もしこの予言が外れたら、私のことは煮るなり焼くなりして構いません」


 と予告した。どこか水を差すようなタナスの発言に、表情を曇らせて気を悪くしたルシアノだったが。


「ならば、もし私の子供の寿命をお前が奪ったら……どうなると申すのだ?」


「貴方様のは、五歳の誕生日を迎える日に亡くなられます。恨むなら、ご自分の行いを恨んで頂きたい」


 余りにも奇妙な雰囲気を醸し出すタナスを目の前に、その場にいた全員が息を呑んで固まってしまう。


 隊長は“侮辱とも取れるタナスを捕えるべきだ”と判断した。しかし妙なことに、その不気味な恐ろしさに縛られているせいなのか、身体が前に出ない。


「今宵はとても有意義な時間を過ごすことが出来ました。では……私はこれで失礼致します」


 言い残したタナスは、静まり返る夜会から何食わぬ顔をして、ゆっくりと去って行った――。

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