アイドル・レゾナンス
多毛指
『アイドル・レゾナンス』
『アイドル・レゾナンス』
〜推しがこの世界を救うと決まっている〜
「このままでは、彼女が——いや、世界が終わる」
霧島 悠(きりしま ゆう)は、震える手でスマホを握りしめていた。
画面の中に映るのは、世界が愛するトップアイドル——天音 エリス(エリス・あまね)。
長い銀髪がステージライトを反射し、星のように輝く。透き通る歌声が空間を満たし、何万人もの観客の涙を誘う。
彼女の歌は、人の運命を変える力を持っている。
ーーいや、それだけじゃない。
彼女の歌には 「世界を変える力」 がある。
実際、彼女のライブを観た人々の人生は変わった。
彼女の歌を聴いて、絶望から救われた人がいる。
彼女の歌を聴いて、生きる意味を見つけた人がいる。
彼女の歌を聴いて、戦争が終結した国がある。
悠もそのひとりだった。
ーー三年前、エリスの歌がなかったら、俺は生きていなかったかもしれない。
高校最後の冬、全てを失ったと感じた夜。
夢も、希望も、何もかもが崩れ落ちた日。
そのとき、偶然耳にしたエリスの歌が、俺の世界をもう一度動かした。
だから、俺は決めたんだ。
「一生、エリスを推す」
それが、俺の生きる意味になった。それが、俺の全てになった。
ーーだけど。
今、その”推し”の未来が、俺の目の前で、ゆっくりと消えようとしている。
何百回、何千回リフレインしても、どの選択肢を選んでも、どのルートを辿ってもーーエリスの死は、変わらない。
悠の特殊能力ーー**『リフレイン・モーメント』** は、“推しのライブを最高の形で繰り返し体験する”力だった。
だが今、悠はその能力を使って、何度も、何度も、“推しの死” を目の当たりにしている。
ーー彼女は、“世界を救うために最期の歌を歌う”運命にある。
悠は、ライブの最後の瞬間を思い出す。
エリスが微笑みながら、涙を浮かべて歌う。
その声が、世界に響き渡った瞬間ーー
💥 爆音とともに、ステージが崩れた。
悠は叫び、何度も何度もリフレインし、未来を変えようと足掻いた。
だが、どのルートを選んでも、結局エリスは 「命と引き換えに世界を救う」 という運命を辿る。
「そんなの、認められるかよ……!!」
悠は、“推しのために”本気で世界を変える”ことを決意する。
ーー推しの歌声が、この世界を救うのなら、その未来ごと、俺が救ってやる。
悠は、“推し活” の次元を超えた戦いに挑むことになる。
世界を変える最適解を探し続けた悠は、ついに”ある未来”に辿り着いた。
それは、エリスが”最後の歌”を歌わなくてもいい未来。
その未来を迎えたライブの夜、エリスの歌声はこれまで以上に力強く、優しく響いていた。
彼女は生きていた。彼女は運命を超え、“生きているアイドル”として、世界を救った。
悠は、観客席の最前列で涙をこらえながら笑った。
エリスが、ふと悠の方を見て、微笑む。
まるで、「ありがとう」と言っているように。
そして、その瞬間ーー💫 悠の『リフレイン・モーメント』の能力が、ふっと消えた。
これからは、もう何度もやり直すことはできない。
けれど、それでいい。悠は、最後の涙を拭って、思う。
ーーこれが、俺の”最高の推し活”だった。
エリスの歌声が響く。
その音は、悠の心に深く刻まれ、二度と巻き戻せない、かけがえのない”今” となった。
悠は笑う。
エリスも笑う。
世界は救われた。
そして、悠の推し活も
ーー最高の形で、幕を閉じた。
「これが、本当のアイドルの力だ」
アイドル・レゾナンス 多毛指 @takeshinz
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