ひなあられ

たをやめ

ひなあられ

「なにそれ」

「これ? 某タバのガラスマグ。可愛いでしょ」

 君が珍獣を見るような目で、こちらを見ている。さっきまで画面に食い入るように見てたのに。

「いや、そっちじゃなくて。食べ方よ」

 ビールジョッキみたいにして、ひなあられを四つほど、口の中に迎え入れた。首を傾げて、ぼりぼりと噛み砕いてから返す。

「んぁ? 手汚れなくて、ゲームしながらでも食べれるからいいんだよこれ」

 おすすめ、と親指を立てた。

 私の部屋で君と遊ぶ、と言ったらお母さんが用意してくれた、マグカップに入ったひなあられ。それが出された時から君がギョッとしているのは知っていたけど、こいつのせいか。

「ああ、そう……」

 呆れたように返す君。すぐさまスマホを目を戻して、また画面を見つめ始めた。

 

「なに、食べたいなら言ってよ」

 あざらしみたいにべちゃっと床に倒れて、ドアに手を伸ばす。ノブに手をかけて、開いた扉の隙間から階下の母に叫んだ。 

「おかあさーん? ひなあられもう一杯!」

「違うって! そんな食べ方見たことないから驚いただけ」

 私のふくらはぎあたりをぺちぺち叩いて、抗議してきた。見たことない、という言葉に驚いて目をかっと見開く。

 目をまん丸にしてひなあられを頬張るあざらしが出来上がってしまったじゃないか。なんと滑稽な。

 

 そうして転がっていると、母が容赦なく、勢いよく扉を開けた。扉が、愛しい息子の頭をはたいたことは視界に映っていないらしい。 

「へいお待ち! ひなあられ一杯ね。おかわりあるから、好きなだけ食べていいのよ」

 その手にはひなあられの山盛りになったマグカップが握られていた。ゆっくりしていっていいのよ、と言ってサムズアップする姿は、やっぱり私の母親か。ローテーブルにひなあられを置いて、ネズミを捕ってきたねこのように目を輝かせている。

 我が家の強引さに抗えないことを悟ったのか、恐る恐る、ひなあられを飲んだ。眉間に皺を寄せて、仕方なく、というふうに。

「んじゃ、手空いてるしゲームするか」

「箸で食べりゃいいじゃん……」

 やっぱりこいつには、この良さが分からないらしい。それでもゲームはやりたいようで、あざらしを起こそうと手を差し伸べる人間。その目にはやはり、珍獣が映っているようだった。

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ひなあられ たをやめ @tawoyame_

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