トリ、おひなさまに敗北

越山あきよし

第1話

「ママ、おひなさま、かってよ」

 小学一年生の娘にせがまれる。

「かなちゃんも、みなちゃんも、おうちにあるっていってたよ」

「余所は余所、家は家」

「えぇ〜」

 私は高校生の時に娘を産んだ。

 駆け落ちしたことから両親とは永らく会っていない。

 旦那とは離婚している。

 金銭的援助はない。

 とにかく、お金に余裕がないのだ。

 本当はお雛様を買ってあげたい。

 だけど、どうしても生活費が最優先になってしまう。

「しょうがないなぁ〜」

「かってくれるの?」

「ちょっと待ってて」

「うん!」

 私は代わりになりそうなものを探す。

 それはすぐに見つかり、娘の前に登場させた。

「トリの降臨!」

 少しでもお金を稼ごうと小説を書いて投稿した際に抽選でもらったトリのぬいぐるみ、ひなまつりバージョンだ。

 届いた時は嬉しかったけど、本当なら生活費の足しになるのが欲しかった。

「こんなのいらない! おひなさまがいい!」

 簡単には受け入れられないとは思っていた。

 だけど、想像以上にショックだ。

 私的には小説を懸命に書いたことで手に入れたという思い入れがこのトリのぬいぐるみにはある。

「だから、買えないの!」

「うええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 必要以上に強く言ってしまった。

 それもこれも貧乏なのがいけない。

 こんなことなら駆け落ちなんてするんじゃなかった。


 ひなまつり当日の3月3日、荷物が届いた。

 中を確認すると、雛人形と手紙が入っていた。

 両親からだ。

「どうして?」

 両親とは永らく連絡すら取っていない。

 住所を知らないはずだ。

 それなのに荷物が届いたことが不思議でならない。

 手紙を読んでみるとその謎が解けた。

 旦那――元旦那が私の両親に知らせたらしい。

 せめてもの償いだとでも思っているのだろうか。

 その行動は理解し難いが、早々に雛人形を飾る。

「おひなさまだー」

 娘が喜ぶ顔を見れてよかった。

「かわないんじゃなかったの?」

「おじいちゃんとおばあちゃんが買ってくれたんだよ」

「そうなんだ」

「そう。お礼しないとね」

「ひなね、おじいちゃんとおばあちゃんにあってみたい」

「会いに行こうか」

「うん!」

 娘と約束した通り、両親に会いに行った。

 私ひとりで娘を育てるのは難しいことから一緒に住むことになった。

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トリ、おひなさまに敗北 越山あきよし @koshiyama

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