日曜日の妖精
和馬 有佑
魔法少女の活躍の裏で俺は特撮ヒーローを作る。
俺の名前はエスプニ、異世界ハートピアで妖精として転生した元日本人だ。
前世の記憶はあやふや、覚えているのは牢屋にいた事、そしてニチアサが好きなオタクだったと言うことだけ、元の名前に至っては全く覚えてない。
牢屋にいた事から前世の俺は何かしら罪を犯した前世の俺は悪人だったのかもしれない、そんな風に興味を持った事もあったが、異世界に転生した今となっては調べようのない事、俺は切り替えて過去ではなく現在を見る事にした。
それよりも心を動かしたのはもう一つ残っていた記憶、ニチアサ、特に特撮ヒーローは俺の魂の憧れ、大人になってもごっこ遊びがやめられずワンルームの自宅で一人ポーズや自分が変身した姿を妄想をするほど熱中していた。
いつか俺もヒーローに変身してみたい、自分で開発したヒーローで誰かを変身させてみたいそう願っていた事だけは鮮明に覚えている。
このハートピアは、ピンクや水色の大地、木々、花々、その外見はアメリカのお菓子にありそうな目がチカチカしそうな明るいカラーリングのメルヘンチックな風景で吹く風の香りは洋菓子店に行った時に感じるような甘く香ばしい菓子の香りがする。
正直慣れるまでは結構キツかった。
一日二日ならまだしも、何十甘ったるい香りとめがチカチカする景色が想像以上に精神的に来る。
暮らしている妖精達もよく言えば心優しいが悪く言えば甘い連中、喜怒哀楽がハッキリしているが、平和的な性格で争いなんて考えもしないそんな妖精しかいない。
総じて評価するなら居心地はいいが刺激不足でちょっと退屈な場所、そんな感じた。
そんな世界に転生してから早い事で十年。
この世界の妖精の大半は一人称が自分の名前だったり、語尾に名前の半分がついたりする。俺も例外ではなく、例えば俺の場合。
「エスプニの大好きな食べ物はあっさり
と言った感じの喋り方、人間と同じように喋れるのは俺が確認した中だと女王しかいない。
いくら前世が一人ごっこ遊びが好きな痛い大人だった俺も、さすがにこの喋りは少し小っ恥ずかしい。
しかし悪い事ばかりでもなく転生したこの体、人間だった頃とは比べ物にならないほど知能が高い。
あらゆる知識をみるみると吸収していきハートピアで学べる学問は全て覚える事ができおかげで最近は前世では出来なかった色々な発明品の開発作業が趣味となりハマっている。
たまに発明が失敗して爆発して女王に怒られるを繰り返していたが、至って平和な日常を送れていた。
この時から、俺は特撮ヒーローのシステムを構造するようになり、計画の下準備を進め始めていた。
さて、長く平和が続いた実はこの世界、現在侵略されている真っ只中にある。
敵勢力は【クロウドー】なる悪の組織で人間の世界とこのハートピアの住民達の心を真っ黒に染めて支配し《お疲れエナジー》とかいう、なんかよく分からんエネルギーを生み出し続ける燃料タンクにしようとしているらしい。
まわりくどい。
前世で言うところのブラック労働をさせようという事だ。ブラック、黒、黒×労働……なるほどだから【クロウドー】なのか、もしかして苦労のダブルネーミングでもあるのかな?
女王様からこのハートピアを救えるのは古より語られる伝説の戦士【フェアリィナイト】だけだと言われて、探して来いと言われた。
この時初めて知ったが、このハートピアとは異なる次元に人間の世界が存在するらしい。
なんでも古代には人間と妖精が共存していたが、大昔に世界が二つに分たれてしまい妖精と人間で住む世界を隔てられたらしい。
行き来するには女王が代々継承している乗り
派遣されたのは俺を含めて四体、レムミン、ミュミュ、メイソウ、そしてこの俺エスプニ。
どいつも年端も行かないような若い妖精ばかりなのがちょっと謎だが、まぁ、とりあえず活動できるように俺は仲間達とは別行動で拠点の準備をする。
やって来た人間界、そこは前世と同じ現代日本の街だが微妙に違って見える。
まずやって来た街、前世でら笑顔市なんて都市は存在しなかったはずだ。
記憶がないので根拠はない、しかし、本能というか、こればっかりは感覚の問題なので説明が難しいが、懐かしかをかんじないのだ。
俺の魂が「ここじゃない」と告げている。
つまりこの日本も、前世とは異なる異世界なんだな、と理解した。
人間界にやって来て一ヶ月が経過、その期間の中で俺は妖精の力について研究し人間に化ける能力を会得、生活基盤を整えて活動拠点となる物件を購入したりして、せっせと準備を進めていたのだが……なんと俺が準備している間に仲間達は【フェアリィナイト】を発見、そして契約した人間達の家に居候していたのだ。
仕方ないので拠点では俺が一人暮らしすることになり裏で【フェアリィナイト】を監視しながら、暇になったのでハートピアで密かに構想を練っていた変身ヒーローシステムの開発研究を始める事にした。
まずは、この世界に現存する【フェアリィナイト】について、現状わかっている情報をまとめて見た。
「伝説の戦士は少女ばかり、絆を結んで契約した妖精と融合する事で変身、それによって引き出された妖精本来の能力を行使する、なるほどぷに〜」
妖精族はハッキリ言って弱い、極めて平和的な種族でこと戦闘力で言えばまともに戦えるのは女王ぐらいだ。
しかし【フェアリィナイト】となった人間と契約すれば妖精に本来秘められた潜在能力を引き出せるようになるらしい。
この潜在能力は妖精の誰もが秘めているものだとすれば……そう思って俺は自分に注射を打って血液を採取、これを元に研究を始めた。
「やっぱり、仮説は正解だったぷに!」
俺は自分の血液とどっかから拾って来た毛髪を元に解析してみると面白い発見があった。
妖精族の細胞と人間の細胞は互いに相乗効果をもたらし活性化を促すと言うもの、これにより妖精は眠っていた潜在能力を引き出せるようになるようだ。
そして、もう一つ発見、血液を垂らした毛髪の細胞は活性化を続けて、最後には細胞の構造そのものが突然変異した。
このメカニズムを解明すれば俺の理想とする変身ヒーローシステムが作れるかもしれない、そう考えて俺は制御機構を含めて一から設計し開発に着手し始めた。
仲間達が【クロウドー】の連中と戦っている裏でああでもない、こうでもないと寝る間も惜しんで徹夜で研究を続けた。
そうして完成させたのはオートマチックガン型の注射銃【ブラストチューシャー】俺の血液サンプルを元に生成した人工妖精細胞を人体に投与する事で【フェアリィナイト】の人間と妖精の融合を再現しさらに俺の求めていた特撮スーツを纏う我ながら傑作のシステムだ。
人体に人工妖精細胞を投与すると肉体が戦闘に特化した構造に変異、あくまで戦闘中の一時的な物だが変異の負荷は大きく下手すると変身者が耐えきれず死んでしまうため、負荷ダメージを抑制するため裏地に薬効成分が染み込ませてあるダイバースーツのように体に密着する保護服を装着、その上から防護装甲を纏う事で変身完了する。
さて、まずはこれを誰に使わせるかだけど、俺はシステムの資格がありそうな人間を探してみることにした。
「おっ、コイツとかちょうど良さそうだ」
そうして目をつけたのは、近所にある商店街で江戸前風鰻屋の店主の息子の
向かいには同じ日に開店した関西風鰻屋があり人気も同じ、店主同士は自分の方がうまいと毎日張り合っており、修磨くんは毎回その喧嘩の仲裁をしている。
そして彼は健気な事に関西風の娘である幼馴染の
しかし、当の里穂ちゃんは父親と共に張り合いに参加しているためイマイチ気持ちが伝わっていないのが現状のようだ。
二つの鰻屋の言い合いがもはや名物となっている平和な商店街に一つの陰りが見えるようになる。
俗に言う地上げ屋である。
不当な方法で手に入れた商店街の所有権を振りかざし、商店街を立ち退かせるために多くの店に嫌がらせをするようになっていた。
当然鰻屋達も標的になり、脅迫をしてきたりしまいには里穂ちゃんの周りに怪しい男がうろつき始めたりしているらしい。
こんな女児向けアニメみたいな世界にそんな生々しい連中がいるんだなと思ったが、好都合だヒーローの動機としては充分足りるだろうし早速俺は修磨くんのヘッドハンティングに鰻屋を訪れた。
人間に化けて、語尾のぷにを封印し江戸前風鰻屋の
「いらっしゃいませ、空いてるお席へどうぞ」
出迎えてくれたのは、目当ての修磨くん、席に案内された俺は一番手頃な価格の鰻重を注文する。
やって来た鰻重はタレの光沢感が食欲を誘う逸品、お箸で鰻に触れると豆腐のようにほろりと崩れてとても柔らかいことがわかる。
口に運ぶと、香ばしい香りと幸福感が口いっぱいに広がる感覚が満たされてくる。
熱さも気にせずに思わず一気にかきこんでしまい、あっという間に
「ごちそうさま、美味しかったよ」
「ありがとうございます。父にも伝えておきます」
「地上げ屋、困ってるんだって?」
そう指摘すると修磨くんの顔から陰りが現れる。やはり困っているのは事実のよう、俺はチャンスを感じ、早速スカウトを始める。
「君さ、ヒーローやって見る気はない?」
「は? ヒーローですか?」
「俺なら君の……いや、この商店街の力になってやれるかもしれない」
「えっと、どう言うことですか?」
「まぁ、要は俺なら君に地上げ屋を始末する力を与えられるって事だよ」
「ほっ、本当ですか教えて下さい! 俺は商店街を、みんなを守りたいんです!」
「おぉ、やる気マンマンだねぇ、いいじゃないか、それじゃあ閉店後にまた来るから話はその時に」
俺は支払いを済ませると店を後にした。
そして拠点から開発した【ブラストチューシャー】を持ち出し、閉店時間に合わせてもう一度鰻屋に向かう。
修磨くんは近所の公園で待っており、俺は警戒させないよう気さくな感じで声をかける。
「やぁ、お待たせ」
「あの、それで、僕はどうすればいいんですか?」
俺はそのセリフを聞いて待ってました! と内心ガッツポーズしアタッシュケースを開いて発明品を彼にお披露目する。
「えっ、これって拳銃!?」
「ただの拳銃じゃないよ、俺が開発した変身注射拳銃【ブラストチューシャー】だ。分かりやすく言うなら、変身アイテムだね」
「変身? あの、もしかしてバカにしてますか?」
彼が俺を怪しむ事は想定済み、そこで俺はある話題を引き合いに出しながら、信用を得るための行動に出る。
「君は最近、街を騒がしている怪物やそれと戦う戦士の事を知っているかな?」
「確か【フェアリィナイト】でしたっけ」
「知っているなら話は早い、これはね彼女達を密かに研究したその成果なんだ。こんな風にね」
そう言うと俺はケースから【ブラストチューシャー】取り出して彼に手渡した。
俺は彼に説明しながら変身を指導するとアンプルマガジンのスイッチを起動すると推しの声優さんの声をサンプリングして作った合成音声のセリフが流れる。
『ウナギ!!』
ボイスの遊び心でちょっとハイテンションな口調にした。
ちなみに人造妖精細胞にはバリエーションをつけるため地球の生物種の遺伝子も少し混ぜている。
やっぱり一号と言ったらバッタだよね〜と言いたい所だが、鰻屋の彼に合わせて鰻の力にしてみた我ながらナイスチョイス。
【ブラストチューシャー】にアンプルマガジンを差し込むと荘厳なコーラスと共にクラシック調の待機音が流れ始める。
銃のスライドを引くと腕に銃口を押し当てると彼は俺が教えた掛け声を口にする。
「えっと『
そうして彼の体内に細胞が注入されると、黒いひび割れのような模様が浮き出てそれが全身に広がる。
「うっ、オェ、ぐぁっ!!」
変身初期に現れる反動で修磨くんの目の焦点が合っていない、足腰もフラついているし、これはアレだな、計画通りキマッている。
『ウナギ!! エクスダスシステム!!』
変身音声と共に彼の全身が銀色のスーツと装甲が纏われていく、そうして完成したのは正義のヒーロー記念すべき一号機【エクスダス・ゼロ】の誕生だ。
「よし、まずは変身成功ぷに!」
いかん、自分の研究の成果が目の前で形になった喜びのあまり思わず我慢していた語尾が漏れ出てしまった。
「ハァッ、ハァッ、ほっ本当に変身した!」
驚く彼を見て俺は我に帰り咳払いをして気を取り直すと、変身した修磨くんの様子を聞いてみる。
「さて修磨くん気分はどうだい? 体にどこか不調はないかい?」
「不調は、ないです。むしろ気分がいい、頭がスッキリしたような、視野が広く感じます」
「よしよし、想定通りだ」
実はこの【エクスダス・ゼロ】ユーザー離れを防ぐためにちょっとした工夫を施してある。
それは、使用者が不用意にシステムを手放さないように投与する人工妖精細胞には依存症を発症するよう付け加えておいたのだ!!
これならばそのへんに捨てることも誰かに渡す事もない! 我ながら実に冴えてる画期的かつ見事なアイデアだ。俺天才。
俺は実践するよう彼に言い、目の前の木を蹴りでへし折らせてみせたり、銃から放たれる光線で公衆トイレのコンクリートの壁を貫いたりとその強さをアピールする。
「どうだい? これなら地上げ屋だけじゃなくて最近街に出るようになった怪物だって倒せるよ」
「こっ、こんなの使ったら、殺しちゃうんじゃ」
俺は彼に力への適度な恐怖心を植え付けると畳み掛けるように語り続ける。
「向かいの娘さん、好きなんだろ?」
「!?」
反応が変わった。いけるな。
「最近、彼女の周りに地上げ屋の手先がうろついてるそうじゃないか、想像して見たまえ、このまま放っておいたら、彼女がどんな目にあうか」
「彼女だけじゃない、君の父親も、君の暮らす商店街も、このままじゃ全て奪われてしまうよ」
「さぁ、選択するだ。目の前のチャンスを棒にふるか、それともコイツを手にして愛するものを守るか、ね?」
そう言って俺は修磨くんにそっと手を差し伸べて選択を問うた。
「おっ、俺は……」
多くの葛藤もあっただろう、しかし大切なものが傷つくのは嫌だよなぁ、そんなゴチャついた感情を固唾と共にゴクッと飲み込んで修磨くんは手を振るわせながらの手を取った。
◇
「ここが、地上げ屋の事務所だよ」
翌日、俺は修磨くんを予め調べておいた地上げ屋の事務所に案内した。
修磨くんは、ポケットからとりだしたアンプルマガジンのスイッチを起動する。
『イール!!』
【エクスダス・ゼロ】となった修磨くんは事務所に乗り込むと、躊躇っていたのが嘘のように暴れ始めた。
「なんじゃあ! カチコミかぁ!」
ヤクザみたいなセリフを吐く奴がいるな、本当にそのスジの人の事務所だったようだ。
彼は室内で光線銃を乱射し、殴る蹴るで容赦なく地上げ屋の連中を殺しまくっている。
俺はその隙に商店街の権利書を回収、そして彼が暴れてなんと僅か二十分で、地上げ屋の大半が死んだ。
「うわぁ!! 誰か助けてぇ!!」
「おや、どうやらまだ生き残りがいるな、さぁ追うんだ【エクスダス・ゼロ】!」
「なぁ、どうなってるんだ?」
「ん? どうした何か不調が?」
「違う! なんで、俺は人を殺したんだぞ! 普通なら
う〜んなんて説明しような、実は君って今ラリってるんだよねぇ〜なんて言えないし。どうやって誤魔化そうかな。
そんな時だった。
「おやおや、あんな所にお疲れエナジー発見!」
タイミングよく現れたのは【クロウドー】の幹部メンバー名前は知らないが中々のイケメンしかもなんか宙に浮いてる。
【クロウドー】の幹部は逃げ出した地上げ屋の構成員に狙いを何やら
「『解放ゥ! お疲れエナジー!!』」
「『おいでませ、ギャーストレス!!』」
そうして現れたのは黒い影の子供の落書きのようなデザインのでかい怪物。
ちょっと可愛いデザインよ怪物は街で「ギャーストレ〜ス」と叫びながら暴れ始めた。
なと言うかこの状況を利用しない手はないと思い、俺はすかさず修磨くんに声をかける。
「まずい、大変だ修磨くん! 街に【クロウドー】の怪物が現れた! このままでは街がめちゃくちゃになってしまう!」
「あっ、アレが噂になってる怪物? でも【フェアリィナイト】が来てくれるんじゃ」
「そんな
対人戦のデータは充分に取れたし、次は怪人相手のデータが欲しい、都合よく現れてくれた【クロウドー】の人には感謝しないとな。
俺の説得を聞いてくれた修磨くんは意を決したのか事務所から飛び降りて、ギャーストレスに立ち向かう!
まずは格闘戦、身体能力は単純な暴力だけでも人体を破壊できるパワーを持つが中身はズブの素人、少し劣勢気味だ。
「落ち着け! 臨機応変に立ち回るんだ距離を取れ!!」
俺のアドバイスを聞いて距離を取ると、射撃戦に切り替え、相手の的がでかいのもあるが、コレはかなりスジがいい、自衛官になっていたらボーナス間違いなしの腕前だ。
攻撃は効いており、ギャーストレスが膝をついた。
「今だ必殺技を撃ちなさい! スライドを引いて狙いを定めて!!」
修磨くんは俺の指示通り、【ブラストチューシャー】のスライドを引っ張ると音声が流れる。
『必殺スタンバイ!!』
ギャーストレスに銃口を向けて狙いを定めて、引き金を引いた!
『妖精キャノン!! ファイヤーッ!!』
放たれたのは人体など容易に包み込めてしまう極太レーザー砲、その一線はギャーストレスを貫き爆散、見事討伐に成功した。
「ッしゃあ!! 実験成功ぷに!!」
彼は変身解除すると脱力して膝をついて、目の前の光景に目を奪われている。
「俺が、倒した? はっ、ハハッ、やった。俺が守ったんだ。商店街を、これでまた。いつも通りに!」
◇
「おっはよ〜修磨くん! 鰻重食べに来たよ〜!!」
翌日、商店街の土地権利書を無事取り戻した上に、実験が上手く成功して上機嫌になって浮かれまくった俺は景気づけに一番高い鰻重を食べに修磨くんの江戸前風鰻屋へとやって来た。
しかし俺はそこで目を疑う光景を
「どうしたんだ修磨! 落ち着け!」
「何しとんねん、アンタの店やろ!」
「ウワァァァァ!! やめろ!! じあげやどもがぁ!! おれの、おれのたいせつなものをうばうなぁぁぁぁ!!」
そこには訳の分からない事を喚き散らしながらヨダレを垂らして目を血走らせながら店の中で暴れ回る修磨くんの姿があった。
店主と向かいの関西風鰻屋の里穂ちゃんが、暴れ狂う彼を懸命に止めている。
「あれぇ? イッヒッヒおかし〜なァ、まだ、じあげやがのこってるぅ? みんな、おれがやっつけたはずなのにな〜アッハハハッ!!」
「あれ、もしかして幻覚症状? おかしいなそんなの発症するように作った覚えないんだけど……」
もしかして、変身後の副作用なのかな、まさかこんなのが出るとは、やっべぇ依存性強くし過ぎちゃったのかなぁ?
「ハハハッ! おれがまもる! しょーてんがいのみんなは、りほは、おやじは、おれがまもるんだ〜!! アッハハハッ!!」
そう言って修磨くんは店を飛び出し、商店街出てどこかへと走り去っていく。
「待って、修磨!!」
里穂ちゃん達も錯乱する彼を追って走る。俺もそれに続いた。
「うっ、うう、力を、もう一度、あの力があれば、地上げ屋から皆んなを守れる!!」
「君が欲しいのは、これかい?」
俺は堂々と彼の前に現れると、新しいアンプルマガジンを手に見せてみせる。
修磨くんは俺からアンプルマガジンを難なく奪い取ると【ブラストチューシャー】に装填、腕に押し当てる。
「はぁ、はぁ、『生体変異ィ!!』」
この【エクスダス・ゼロ】はプロトタイプ、本来なら変身後は一日ほどインターバルを置く必要がある。
理由は体内に残留した人工妖精細胞の増殖を防ぐため、この期間の間に白血球などの抗体が妖精細胞を排除するのを待たなければならない。
もし、それを待たずに人工妖精細胞を取り込むと、人工妖精細胞の増殖が抑えられなくなり体組織が作り替えられてしまう。
「あば、あばばばばばば!!!」
修磨くんが白目を向いて痙攣しながら泡を吹に始めた。
次の瞬間、アンプルを投与した傷口から彼の全身が溶けて液状になった肉のような物が吹き出し包まれていく。
人の形を成していくと肉の液体は凝固するとその見た目はケロイド状のゾンビみたいになると、口からデカいウナギが飛び出し、巨大ウナギは半身が修磨くんの口に入ったまま右腕に巻き付く。
「へぇ、こんな感じになるんだ」
俺はこの現象を《
《怪人化》したら姿はもっとメルヘンな感じを想像してたのに思っていたよりグロくなるんだな、今度はそこもいじれるように研究しよ。
修磨くんはウナギの腕をムチのように振り回して街を破壊して暴れ始める。
そこに駆けつけてきたのは里穂ちゃん、どうやら変身シーンを目撃したようで俺に駆け寄ってくる。
「なんや、どう言う事! アンタ修磨に何したん!?」
戸惑うのも無理ないと思った俺は里穂ちゃんの質問に対して把握している範囲の状況を説明してあげた。
「俺があげた変身システムの用量を守らず投与したせいで肉体が耐えられず突然変異を起こした。って所だろ、インターバルを置く必要があるのに、依存性を付けたのは失敗だったな」
「そっ、そんな、なんとか助けられへんの」
「いやぁ無理かな、怪人になっちゃった時点で人間としては彼、死んじゃってるんだよね」
その言葉を聞いた里穂ちゃんの表情に陰りが見て取れる。死んだ言われて流石に動揺しているようだ。
「人工妖精細胞は
「嘘や、ウチは信じへん! 修磨はウチが助ける!」
「レムミンも同じ気持ちレム〜!!」
彼女の決意に応えるように現れたのは俺と同じぬいぐるみのような見た目の妖精……あれ、こいつレムミンじゃん?
レムミンは【フェアリィナイト】を探すためにハートピアから一緒に来た仲間の妖精なんだけど、えっ、てことは里穂ちゃんってまさか。
「いくでレムミン、ウチに力を貸して!」
すると里穂ちゃんの周囲にオレンジ色の謎空間が展開されると、神作画の凝った変身バンクが始まった。
『フェアリィ〜コントラクト!!』
『フェアリィ〜フュージョン!!』
『甘く酸っぱい妖精の騎士、フェアリィミカン! アンタに仕置きかましたる!!』
そうして変身完了した姿、これこそが僕たち妖精が探しに来た伝説の戦士【フェアリィナイト】の三人目その名も《フェアリィミカン》が参上した。
おいおい、マジかよ里穂ちゃんが【フェアリィナイト】あっ、そう言えば一人目以外は変身者が誰なのか調べてなかったじゃん、完全に調べた気になってて忘れてた……研究に夢中になり過ぎたかな。
「お願い、目ぇ覚まして修磨!!」
「ゴァァァァァ!!」
狂乱する修磨くんに里穂ちゃん改めフェアリィミカンは果敢に立ち向かっていく。
流石は伝説の戦士とも言うべきか彼女は存外に強く、彼の攻撃を巧みに交わして距離を縮めていく。
『ミカンバリア!!』
彼女が出現させたのはオレンジ色の半透明のエネルギー障壁、フェアリィミカンはそれを防御ではなく、彼を床に押し潰して拘束する。
発想は悪くない、捕まえるなりして治す方法を探したいのだろう。
しかし怪人化してしまったとは言え俺が作ったヒーローはこの程度で抑えられるほどヤワじゃない。
「グゥ、グァァァァ!!」
修磨くんはなんと力ずくでバリアの拘束を打ち破って見せた。
それに驚いて反応が遅れたフェアリィミカンはその一瞬の隙をつかれてしまいウナギ触手の一撃を喰らってしまう。
壁にクレーターのようなへこみが出来るほど強く打ち付けられて変身解除、元の姿に戻ってしまった。
「りっ、里穂! しっかりするレム!!」
「うっ、うぅ、しゅう、ま……ッ!!」
「選手交代だ」
俺は里穂ちゃんの壁になるように前に立ちはだかると彼女に話しかける。
「助けたいと思う君の気持ちは立派だ。その気持ちに経緯を表し俺がヒーローの手本をみせてやろう」
「修磨くんこれでも俺は
俺は彼の戦闘データを元に完成させていた俺専用の黄金の【ブラストチューシャー】を胸元のホルスターか取り出した。
そのデザインは彼に与えたオートマチック型とは異なり、かつてドイツ軍で使われたというモーゼルC96の意匠をオマージュしている。
俺は妖精細胞と同時に開発を進めていた人間の血を再現した人工血液が込められたマガジンアンプルを上部の弾倉から装填する。
俺は自分のコメカミに銃口を押し当て変身の掛け声を唱える。
「『生体変異』」
俺が引き金を引くと、全身をアンダースーツが包み込み、漆黒の装甲が纏われていく。
【フェアリアル・エス】俺専用の俺だけの変身ヒーローシステムだ!
研究の結果妖精の細胞は潜在能力こそ解放されるが人間のように突然変異を起こさなかったことから、リスク無しで妖精本来の力を引き出すことにせいこうした。ちなみに依存性はオミットしてある。
俺に狙いを定めた修磨くんはウナギの触手を振るってくる。
俺はそれに合わせてウナギ触手に向かって光線を射撃、二、三発撃ち込むと触手は千切れて撃ち落とられる。
修磨くんは触手を失ってよろめいたが痛覚はないのか、構わず俺に立ち向かってくる。
【ブラストチューシャー】をベルト横ホルスターに納めて俺は徒手による格闘戦を試してみる事にする。
相手の攻撃を見てから受け流しカウンター、右腕の振り上げ攻撃は掻い潜るように回避すると床がひび割れるほど踏み込んで右横腹に全体重を乗せた肘打ちを刺す。なんちゃって八極拳である。
大きく吹っ飛ばされる修磨くんだがすかさず立ち上がり今度は刺すような膝蹴り、それには相手の足が上がるタイミングでその足と顎を掴んで体制を崩して床に叩き付ける。なんちゃって合気道である。
俺は彼の首を掴んで立ち上がらせ、反撃する暇も与えないない息もつかせぬ怒涛のインファイトで拳のラッシュを撃ち込む。
「まって、やめて、そんなんやったら死んでまうやろ!!」
里穂ちゃんがなにやら抗議しているがそんなものを聞いてる暇はない、彼の体がよろめいたタイミングで隙をつくように回し蹴り、それが修磨くんの胸を捉えて大きく吹っ飛ばした。
痛覚がなくともダメージはある。
あれだけ攻撃を喰らい続けたせいでダメージが蓄積したのだろう修磨くんはもう立ち上がるのもままならないようだ。
俺はすかさず腰のホルスターに納めていた【ブラストチューシャー】を抜いて銃の撃鉄を倒すと必殺待機モードに移行。
『フィニッシュ
【ブラストチューシャー】からハイテンポなコーラスと共にクラシック風の待機音が流れると銃口を修磨くんに定める。
「待って! やめて!」
彼女は這いずってコチラに近づいて俺を止めようとするが、この距離ではもう間に合わないだろう、俺は引き金を引いた。
『ファリアルブラスト!
極限まで圧縮されたエネルギーが解き放たれる修磨くんの体を貫いたのは枝葉のような細さの一筋の閃光。
彼は内側から爆炎に焼かれて爆発四散、跡形もなく木っ端微塵に消し飛んだ。
怪人が倒されると爆発オチ、その光景を見て思わず感動してしまう。
「フフフッこれぞ様式美、必殺技で倒されると爆発するように細工しておいて正解だったなぁ、やはり怪人の散りざまは爆発に限る。実に美しい」
ありがとう修磨くん、君のおかげで俺の研究は本当に進んだ……名残惜しいがお別れだ。
俺は彼に与えた【ブラストチューシャー】を回収すしたのだが、その時視界に里穂ちゃんの姿が目に入る。
ヘタリと床に座り込んで何も動かない、呆然としている。無理もない幼馴染が目の前で死んだのだ。
「修磨くんね君の事好きだったんだよ、この力を手に入れたのも、地上げ屋から君や父親、商店街を守るためだったんだ。
生前彼が伝えられなかった事を俺は代わりに伝えて、彼女の肩に手をポンと置く、里穂ちゃんは何も言わない。
「彼は間違いなくヒーローだ。街のために地上げ屋を皆殺しにしてくれた。君も修磨くんに恥じない素晴らしいヒーローになってくれよフェアリィミカン」
ヒーローとは誰かのために戦うことが重要だと俺は彼女へ
◇
「あれ? ここの鰻屋さん閉まってる!」
「そんなぁ、残念だミュ……」
修磨くんの実家の江戸前風鰻屋はあれから程なくして閉店してしまった。
店を訪れていた【フェアリィナイト】の一人目フェアリィアップルと妖精ミュミュがそれを惜しんでいる。
「ねぇ、よかったらウチで食べてって」
アップルに声をかけたのはフェアリィナイトの仲間であるフェアリィミカンこと里穂ちゃん、修磨くんの件があって以降、相反する二つの鰻屋が合併し江戸前と関西風、両方出す店へと生まれ変わっていたのだ。
実に感動的だ。
修磨くんの高潔なヒーロー精神は死してなおも輝き続けて、彼が悩んでいた両店舗の喧嘩が彼の死によって仲裁された。
俺は一人、拠点でハートピアにいる女王へと報告の通信をする。
鏡に向かうの世界の景色が映り出し、リモートで報告を開始する。
「エスプニ、人間界はどうですか?」
「とっても楽しいぷに! エスプニはまだだけど、他のみんなパートナーを見つけて仲良くしてるみたいぷに!」
「エスプニ、あなたのパートナーは見つかりそうですか?」
「心配ないぷに、既に目星は付けてるぷに!」
「そうですか、期待していますよハートピアの運命はあなた達にかかっているのです」
「わかったぷに! 期待に応えられるよう頑張るぷに!」
そんな感じで女王へ通信を終えた俺は、別室に拵えた培養槽を見にいく。
「いい感じぷに!」
そこに使っているのは中学生くらいの女の子、実は回収した【ブラストチューシャー】に付着していた修磨くんの血液から手に入れた遺伝子サンプルでクローンを作成【フェアリィナイト】用に女の子にして培養している。
仮に修磨ちゃんと呼称するが、彼女の脳にはマイクロチップが埋め込んでおり俺の脳波と反応することで精神をコトロール擬似的な絆を結ぶことができる。
俺は今後彼女と契約して表向きは活動しようと計画している。
しかし、ヒーローの計画を諦めたわけではない前回の反省を活かして新しいシステムを鋭意開発中である。
次はアサルトライフルにしようかな、フフフッアイデアが止まらない!
「さぁて……次は誰をヒーローにしようかなぁ〜ぷに♪」
日曜日の妖精 和馬 有佑 @Gin115
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