35 仲間でも秘密の一つや二つはあるもの

 次の日、ピヒラの部屋を訪れると、準備を終えた彼女が気まずそうに下を向いた。


「きっ、昨日はその、途中で寝ちゃった?のよね。運んでくれて、ありがとう」

『いい顔で寝てたわよぉ』


「大丈夫だったか?一応、防具は脱がせたんだが服なんかはそのままだったからな」


「う、ん。大丈夫!起きてからシャワー浴びたから。食事は、もう少ししたらだよね」


 視線をうろうろさせるものの、ピヒラはやっぱりトールヴァルドの方を見なかった。

 もしかすると、勝手に鎧を脱がせたのが良くなかったのだろうか。


「ピヒラ?勝手に脱がせて悪かった。だが、そのまま寝かせるのもどうかと思って」

「えっ。あ、ううん。それは大丈夫。中の服はそのままだったし」

『そうそう!色気のいの字もなかったのよ。ヘタレよねぇ』


 怒っているわけではないらしい。


 というか、勇者の魔法剣(ごり押し)はトールヴァルドに何をさせようとしているのか。

 寝込みを襲うなど、男の風上にも置けない行いをするわけがない。


「じゃあ、どうしたんだ?」

「えっと、その……」

 俯いたまま言いよどむので、トールヴァルドはピヒラの前に立って頬を手で挟み、ゆっくりと上を向かせた。


「大丈夫だから、言ってみろ」

「ん。だからね。あたし、魔王なの」

「あぁ、そうだったんだな」

『そうだったのよぉ』


 この物言い、どうやら勇者の魔法剣(ごり押し)はピヒラが魔王であることを知っていたらしい。

 これについては、後で聞いておこうと思う。


「えっ?それ、だけ?」

「うん?あとはそうだな……魔王って大剣の天才のことだったんだな」

 それを聞いたピヒラは、目をぱちぱちと瞬いた。


「あの……嫌いに、なったりしない?」

 今度は、トールヴァルドが目をぱちぱちさせる番だった。


「なんでピヒラを嫌いになるんだ。俺はピヒラのパートナーだし、パーティの仲間だ。信頼こそすれ、嫌う理由がない」

 トールヴァルドがそう言い切ると、ピヒラはほっとしたように表情を緩ませた。


『そうねぇ。トールヴァルドに限って、魔王だからってピヒラちゃんを嫌いになることなんかないと思うわ。可愛いし強いし素直だし』


「だって、人界での魔王って勇者の敵だったから。でも、ヴァルドがそう言ってくれて嬉しい」



 これは、可愛いものだ。



 トールヴァルドは自分の中にある感情に納得した。

 ピヒラの頬から手を離したトールヴァルドは、ふと気づいたことがあったので口を開いた。


「なぁピヒラ。もしかして、その大剣、ピヒラとだけ会話できたりしないか?」

「へっ?う、うん。なんかたまに話しかけられるわ。もしかして、ヴァルドも?」


「ああ。勇者の魔法剣(ごり押し)はとにかく煩い」

『ちょっとぉ!煩いって何よ煩いって。それに、アタシは魔法の杖なんですからね!あと、賑やかで楽しいって言いなさいよね!寂しくならないように気を使ってあげてるんだから』


 トールヴァルドは腰にある勇者の魔法剣(ごり押し)を見下ろし、ピヒラは壁に立てかけた大剣を見やった。

 それから顔を見合わせ、笑いあった。


「よかった。あたしが異常なのかと思ってたの」

「俺もだ。歴代の勇者は寡黙だったって言われているんだが、多分この煩いやつのせいだ」


「ふふふ。ヴァルドの勇者の魔法剣はどんな声なの?あたしの大剣はね、騎士の女性みたいな感じ。たまにアドバイスもくれるんだけど、言葉だけだからちょっとわかりにくくて。でも、道端で返事するわけにもいかないから、基本は無視してるの」

 苦笑するピヒラに、トールヴァルドはうなずいた。


「勇者の魔法剣(ごり押し)は、野太い男の声だ。でも話し方が女性で、ずっとしゃべってるからずっと聞き流している」

『そうなのよ!酷いと思わない?って、ピヒラちゃんには聞こえないのよねぇ』


「あははは。一緒ね。なんだか、正反対な感じはするけど魔王と勇者って似てるのね」

「そうだな。にしても、勇者の魔法剣(ごり押し)はピヒラが魔王って知ってたのか」

『途中まで気づかなかったけどねぇ。あの大剣をよーく見て、ピヒラちゃんの特徴が魔王と一緒だって思って、なんとかわかっただけよ。隠したがってるみたいだから、黙っておいたの』


 ちらりとピヒラを見ると、彼女も大剣と会話しているようだった。


「えっ。じゃあ、ヴァルドが勇者って……最初から知ってた?なんで教えてくれなかったのよ。……聞かれなかったって、わからないから聞きようがないじゃないの」

 どうやら、大剣は最初からトールヴァルドが勇者だと気がついていたらしい。


 それぞれが武器と話していたら、朝食の時間になっていた。

「じゃあ、これからもパートナーとしてよろしくな。魔王ピヒラ」

「うん!あたしこそよろしくね、勇者トールヴァルド」


 トールヴァルドが拳を前に出すと、ピヒラも拳をつくってコツンと当てた。


 にぱっと笑うピヒラは、やはり可愛い。




 次の日、朝だというのに多くの人が見送りに来てくれた。


「魔王様!お気をつけてぇ」

「こちらの干し肉、良ければお持ちください魔王様!日持ちしますので」

「昨日集めた木の実です!魔法で乾かしたので、これも少しは日持ちしますからどうか」

「ありがとうございます、魔王様!」

「お気をつけて!魔王様!あ、勇者様も!」

「お怪我のないように!」

『ピヒラちゃん、大人から子どもまで大人気じゃない。そんでトールヴァルドのついで感』


 昨日のトールヴァルドの魔力による威圧が効いたのか、今日はもみくちゃにされるようなことはなく、誰もが適度な距離を持って接してくれていた。

 食料品や消耗品など、いくつかの物品を手渡してくれる人もいた。


「あ、ありがとう」

「食料品は本当に助かる。ありがとう」

『悪い人たちじゃないのよね。感謝の心はアタシが受け取ったわ!』

 なぜ勇者の魔法剣(ごり押し)が受け取るのか。


 昨日のうちに食料品は買い込んでいたが、アイテムボックスに入れておけるので荷物が増えても問題ない。

 鞄に入れる動作でアイテムボックスに放り込み、決めていた方角へと足を進めた。


 次の村は馬を育てている牧場があるらしいので、二人で乗れる馬がいれば買いたい。




 一時間も歩くと、さっそく小さな魔力溜まりと魔物を見つけた。


 ピヒラが魔物を倒し、トールヴァルドが魔力溜まりを蒸発させる。

 数時間ごとに同じようなことを繰り返し、野宿と移動を続けること七日。


「お、牧場が見えるな」

『シュネルちゃん元気かしら。アタシに会えなくて寂しがってるかもね』


 勇者の魔法剣(ごり押し)については何とも言えないが、きっと元気にしていることだろう。


「ほんとね。でも、馬はあんまりいないみたいだけど」

『あら?厩にもほとんど見当たらないわね』


 牧場らしい場所は柵で囲ってあり、広さのわりに馬が数頭だけのんびりと歩いていた。

 魔物が増えてきているので、もしかすると多くは育てないようにしているのかもしれない。

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