【KAC20251】鶴の恩返し?
八月 猫
第1話
ある寒い雪の日、おじいさんは罠にかかっている一羽の鶴を見つけました。
その様子をかわいそうに思ったおじいさんは鶴を罠から解放してあげました。
すると鶴は山の方へと飛んでいってしまいました。
子供の頃に聞いた昔話が頭に浮かんだ。
目の前には一羽の鶴。
白い羽毛に黒い柄。頭の上が赤いタンチョウと呼ばれている鶴だと思う。
その細い脚にはとらばさみと呼ばれる罠ががっちりと食い込んでおり、鶴は苦しそうに頭を下げて罠にかかった脚を見つめている。
確かにこれはかわいそうだ。よし助けてやろう。
――とはならん。
なぜなら今は令和で、俺は仕事帰り。そしてここは住宅街にある俺の住むアパートの前。
しかもこの鶴はたった今、まるで俺が帰ってくるのを待っていたかのように空から目の前に降り立ってきたのだ。
さも俺に助けろと言わんばかりに。
いや、実際にちらちらとこちらを伺っているようにも見える。
こんなおかしなシチュエーションでは、かわいそうというよりも怪しいといった感情が先に湧き出てくる。
よし、無視しよう。
そう決めた俺は鶴の横を抜けようと歩き出す。
が、俺が通り過ぎようとすると、鶴は今にも飛び立ちそうな勢いで羽を広げて俺の進路を塞ぐ。
更に進路をずらして距離をとろうとすると、無事な方の脚で器用にケンケンしながら近づいてくる。
軽くダッシュでその逆サイドへと走る。
――バサバサ!
大きな羽を羽ばたかせた勢いで一気にディフェンスされた。
元気じゃねーか。
そのまま頑張って飛べよ。
「……助けて欲しいのか?」
――こくこく。
返事したな。
はっきりと俺の言葉を理解してんな。
「はぁ……」
俺は周囲を警戒しながら慎重に鶴に近づく。
これはテレビのドッキリならまだ良い。そうじゃない場合はただの不審者にしか見えないだろうから。
だが、果たして素手でこの罠を外す事が出来るんだろうか?
と、そんな考えも一瞬で杞憂と消えた。
両手でとらばさみを広げると、ほとんど何の抵抗も無く開き、そこに挟まっていた鶴の脚も怪我をしている様子は全くない。
仮病か?いや、この場合は
「おい、お前――まあ、良いか。じゃあな。気を付けて山に帰れよ」
この寒空でこれ以上茶番に付き合っていたら風邪をひいてしまう。
そう考えて鶴をそのままにして部屋へと向かった。
――すたすたすた。
――とことことこ。
――すたすたすた。
――とことことこ。
「何故ついてくる?」
アパートの階段まで辿り着いた俺は、振りかえって後ろからついてきていた鶴を睨みつける。
――ぴ~ぴゅ~♪
そのくちばしでどうやって口笛吹いてんだ?
とぼけ方がベタすぎる。
「……警察?市役所?いや――保健所か」
――バサバサバサ!!
そうして鶴は無事に山へと帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます