第1話



幼馴染とかいうポジションって、本当に面倒くさいと思う。



お互いの自宅は徒歩一分の距離。


親同士が同級生とかで、記憶がないほど小さい頃から家族同様に一緒にいて、週末は海だ、山だ、BBQだ、旅行だ…と、高三になった今でも頻繁に出掛ける日常。


勿論、学校も同じ。同じクラスだったことも何度かあって。


部活まで同じ合唱部で、二人で部長と副部長とか、どれだけなんだよ…と思うほど。



だから…、恋愛の意味で“好き”だと自覚した時には、既に言い出せないくらい近すぎる存在になっていた―――…。





「ねぇ、拓くん。良い曲見つけたよ」


「ん、どんなの?」


「これ。次、歌わない?」




子供の頃からの面影を残しつつ、大人びた端麗な容姿に成長した、最愛の幼馴染の女の子は、今日も恥じらいもなく、俺のベッドで携帯を弄りながら、うつ伏せで寝転がっている。


そして、その体勢のまま寄ってきて、付属の有線イヤホンの片方を自分の耳から外して差し出してくるから、それを受け取った。



ベッドに凭れる格好で床に座っていた俺がそれを付けようとすると、自然と彼女の顔が近付いて、そろそろ無線のイヤホンを買えばいいのに…と心の中で思う。


敢えて口に出さない理由は、以前、軽い気持ちで「二人なんだから、音出せば?」と言ったところ、「この方が集中できて、よく聞こえるんだから!」と、予想もしない方向から怒られたから。


その時、余計なことは言わないに限る…って、学んだんだ。



だけどね…、俺としては集中どころじゃないんですよ。


寧ろ、意識の9割方を君に奪われてしまってるの、知ってます?


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