真っ暗がりの洞窟内。

　妾が暇つぶしで作り上げたダンジョン。

　ぶら下がるランプを頼りに五人の冒険者が歩いていた。それを上から盗み観る。

　進む冒険者たちには真っ暗なので上がどこまで続いているかわからないだろう。事実、城が丸々入るくらいの高さがある。

　つまり真っ暗闇の天井はすぐに届かない。

　彼らの頭上の暗黒の世界は家屋の化粧あらわしの梁のように岩が蜘蛛の巣の如く張り巡らされている。

　彼らからその暗闇に潜む妾は見えない。

　ちょうどスポットライトに当たる演者がステージ下の客席の顔が見にくいような。まるで水の底にいる蟹が時折水面からくる光を感じるごとく。

　ぶら下がっているランプもさながらスポットライトのように五人を照らしていた。

　この観客席はすべて妾が作り上げた。

　時間は無限にあるのだ。おかげで来る演者の様子を愉しく観客させてもらっている。

　苦痛なのは岩を削った椅子に座る時と時折舞い寄る蝶々を苦々しく見る時くらいだ。それと足枷。

　今も寄り添おうとしている蝶を払いのける。

　今回の演者たちは勇者にヒーラー。そして騎士と武闘家と魔術師。

「――」

「……――！！」

　どうやら名前を呼び合ったり、指示を出したりしているようだが、残念ながら反響してしまい詳しくはわからない。

　前回の演者たちよりも連携もとれている。

　……もっとも前回の演者たちは今彼らが悪戦苦闘しているスケルトンの軍団の中のどれかになった。

　妾は大抵一人を目で追う節がある。

　今回は騎士。

　残念ながら兜に隠れてしまい顔は見えない。甲冑は黒備えの真っ黒な騎士。灯りのないところに行ってしまうと黒の鎧はまちまち暗闇と同化して消える。

　目で追うのも大変だ。

　蝶々たちも青い鱗粉を意味もなく振り撒いている。騎士もそれを手で払い避けていた。

　随分動きも良い。

　何より、気遣いが見える。

　他の者は分からないだろう。…………特に勇者に向けての気遣いが著しい。きっと親友なのかもしれない。いや、同郷、幼馴染――お互いに高めあう仲といったところか。

　それを静かに見守る愛らしいヒーラー。

　ヒーラーを守る勇者と格闘家。妾のようにそれをニヤニヤと見守る魔術師。

　――ほうほうこれは……。

　一人でニヤニヤする。

　愛や友情が垣間見え、実に愉快。

　色々と推測し、楽しく観戦する。

　死地ではこういう人間模様が顕著に出やすいから面白い。裏切りや助け合い。なすりつけなどなど……。

　命の危険が高まるほどにそれは顕著に表れる。

　それはそうと彼らの実力では到底突き進むのは無理だろうと踏んでいた。しかし、ここまで辿り着けたことには、拍手喝采を浴びせたい。

　無事にというのも憚られるが、軍勢を倒したらしい。

　満身創痍であるが、バラバラになった骨が地に散乱している。……あとで今後の演者のために再生させておかなければ。

　唯一無傷のヒーラーが一時休息する一同を癒し奔走する。特に騎士に対して回復薬やらをあげていた。しかし当の本人は断っていた。

　仕方なく他の者の治癒に向かうヒーラー。

　それを見る勇者。その後何かの目配せを武闘家としていた。

　騎士は剣を肩に担ぎ、壁に凭れる。もし強襲があってもすぐに対応できるようにしているのだろう。しかし一応妾も鬼ではないから、そこは第一関門前のちょっとした休憩所として作っていた。

　ある程度して彼らは立ち上がり、目の前の扉へと向かっていった。