吉良 愛李
あらかじめ言っておくが、この世界には「超能力」なるものの存在が認知されている。詳しい原理は賢い人達が頑張って解明中である。昔はもっと存在を隠そうとしていたが、ある程度まで増えてきてしまったので、もうその存在は日常の一部と化した。そして、能力を駆使して戦う「
「ねえ、愛李知らない?」
「え?……あれ、さっきまでいたよ?」
「……私ならココだよ」
「あ、愛李!」
「どこ行ってたの?」
一歩も動いてないよ。ずっとココにいたよ……なんて言える訳がない。
昔からそうだ。「吉良愛李」の名は存在し、私は確かにこの世界にいる。でも、友達や家族にすら存在が認知されない。私の似顔絵を描いて、って言ったら、きっと適当に黒いロングの女の子っぽい感じのを描いて終わり。取り敢えず可愛いって感じのバグみたいに大きな瞳とかを装着させる。誰も私の顔は分からない。各々が個人的にピッタリの想像のお面を私に被せる。そうやってから、私とコミュを取る。
承認欲求がとびきり強いという自覚はない。でも、ココまで他人から認識されないとなると、多少は強くなる。
「私を見て」その一心で、芸能事務所に応募してみる。私は特別に目立ったスペックがある訳ではなかった。でも気付いたら、何かパスしてた。
それからは、どんなゴミみたいな仕事が回って来ても、愛想良く承諾することにした。仕事を選んでたら、私の価値はホントになくなっちゃう……それだけを怖がって、自分を認めて欲しくって……自分が存在することを認めて欲しくて。でも、私が思っていたよりも、周りは私を評価してくれた。グループ組んでキラキラした表舞台に立つことも出来るようになった。最初は喜んだ。ステージから見える星が輝く夜空のような観客席にワクワクした。でも違和感に気付いた。楽屋で澤さんが私のことに気付けないこと。最初はいつも通りだから、気にしなかった。でもステージの上での煌めきとのギャップが激しくなる程、楽屋の白い壁の細かなシミに目が行きがちだった。普通の白い壁が段々と汚く見えてきた。そして、私は気付いた。皆が祀り上げている私は……私じゃない。皆が見ているのは、魅せられているのは、愛李じゃない……アイリだ。皆はアイリを見ている、
皆がアイリを見ていると分かっているなら、全てが軽く感じた。皆が私を、細かく見ていないと分かっているから、ステージ上で自由に舞えた。きっと私は、輪郭が朧気で、何かピカピカ光っていて、後は何だろ……後光とかが差しているように見えているんだろう……。
取り敢えず私はこのことを適当に捉えていた。そういうモンだって。でも、ちゃんと説明するなら……恐らく一種の超能力なんだろう。凡庸な女の子に人々があそこまで熱狂している、この現象は。こんな才があるのなら、活用しない術はない。私がアイリとしてステージに昇るだけで、人々は私のことを瞬く間に認知し、虜になる。私を偶像として見る。
「もう……行くところまで行こう……」この力があれば、世界中の皆が私を……私の存在を認知する。……言い訳じゃないけど、人は自由というものを扱うのが下手っぴな生き物だ。何かを「自由に使っていい」って言われたら、それの前にちょこんと立って使い方を考える。術が浮かんでも、軽く突ッ突くか、投げ飛ばすか。はたまた閉じ込めるか、何も手を加えないか。何れにしても極端にしかできない。こんな強力な能力なら尚更だ。微かな可能性に希望の光を見出そうとしてしまう。血気盛んで血迷いがちな……自分に可能性と辿り着くための膨大な時間を抱え持っていると勘違いしている若人の悪い
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