四十未婚と雛人形

星見守灯也(ほしみもとや)

四十未婚と雛人形

「ええ、わざわざ出したの?」


 娘が四十にもなって雛人形もなにもないじゃない。そんな言葉はすんでで飲み込んだ。


 久しぶりに電話をしたら、実家では雛人形を出したのだという。私も知っている。私の小さい時からあった、木目込造りの親王飾りだ。立ち姿で、飾るところを選ばないので、だいたい玄関、靴箱の上に赤い毛氈を敷いて出していた。しまいこむのは、変わってなければ階段下の季節ものコーナーなので、出すのが簡単ということもないのに。


 それはいい。


 私は一人っ子で、かつ未婚である。昔なら四十すぎて未婚なんて考えられなかっただろうが、最近ではわざわざ本人に言ってくるものはほとんどいない。親も最初から期待をしていなかったのか、それとも期待しなくなったのか、あれこれ言うことはなかった。


 それでも時々考える。やっぱり親としては孫の顔見たいんじゃないかなあ。


 お隣のお孫さんが結婚したと聞いて、どう返せばいいかわからなかったときのことを思い出す。いや、私に結婚する気がないというのは本当だし、だから不幸で不孝と思っているわけではないのだけど、それでもほんのちょっと申し訳なさがある。


 まあ、何度考えても「それはそれで仕方ない」というところに落ち着くのだけど。


「あんたがお雛様の宝冠のビーズとってなくしちゃって」

「いつの話よ、それ。もう三十年も前でしょ」

「ブー! 三十七年前の話よ。私が直したんだからね」


 雛人形は、もとは水に流す厄除けの人形やままごとの人形だったという。それが豪華絢爛な内裏雛になったのは、やっぱり人の一番の幸せは結婚だと思われてた証拠じゃないか。そんなことを考える。もっとも、昔のえらい人の結婚というのはそれはそれで不自由であったのだが。


 そんな私も、結婚しないから不幸とは言わないが、人の知っている幸せを知らないで死ぬのかあと思うと、ちょっともったいない気もする。だから誰でもいいから結婚したいという気分にはならないのだけれど。


「なんで出すかなあー。めんどくさくないの?」

「出したっていいじゃない。あんたが無事に育ってくれてありがとうって」

「……」

「それにこうしてあんたと話す、話の種になるんだもの。出さなきゃ」


 そっか。


「じゃあ、ちゃんとしまってよ。また電話するから」

「はいはい」

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