3話 命の誕生の瞬間

休日、俺は瑠奈の病院にやってきた。

「ほんとに森の中にあるんだな・・。にしても遠すぎるだろ・・。」

自宅から約20km離れた森の中にある小さな建物。見た目はログハウスでとてもおしゃれだった。

周りには建物もなく、駐車場は10台ほど停められるくらいだった。

「不便だな・・。」

そうぼやいていたが、今この現状を解決したいので勇気を出して中に入った。

「こんにちは。」

中に入ると、受付にナース服を着た小柄で優しい雰囲気の看護師が座っていた。

「どうも・・。」

「初診の方ですか?こちらの問診票のご記入をお願いします。」

俺は問診票を受け取り、待合室の椅子に座った。

待合室は病院だと思えないほど快適で、天井にはプロペラがあり、木のぬくもりを感じられてとてもリラックスできる。

俺は問診票を隙間なく記入し受付に提出した。

「はい、呼ばれるまでかけてお待ちください。」

再び、椅子に座り周りをよく見ると男性ばかりだ。それもマタニティマークをつけている人でお腹が大きい・・。

この光景をみて俺は内心ドキドキして手が震えた。

「俺も、あぁなるのかな・・。」

不安と恐怖を抱えながら呼ばれるのを待っていた。

すると、隣に座っていた大柄の男性がお腹を抱えて苦しみだした。

「くっ・・、痛い・・。」

俺は勇気を出して「大丈夫ですか?」と声をかけた。

その瞬間、水が零れる音がして下を見ると彼の下半身が水浸しになっていた。

破水だった。

その様子に気づいた受付の看護師がタオルを持って駆け寄ってきた。

「大輝さん、大丈夫ですよ。すぐ先生が来ますからね。」

看護師は落ち着いた声で話しかけた。

すると、奥から2人の看護師が他の患者に声掛けをして場所を誘導していた。

俺も移動しようと動き出した瞬間、男性に腕を掴まれた。

「頼む・・ここにいてくれ・・。」

色黒で見た目は怖そうな人だが、痛みに耐えられず目が潤んでいた。

俺は、自然と体が反応し男性の手を握った。

「わかりました。」


その時、バタバタと白衣を着た瑠奈が走ってきた。

「お待たせしました!大輝さん、ちょっと見ますよ。」

瑠奈は学校にいたときと雰囲気が違い医者の顔をしていた。

彼の体を座っていた長椅子に寝かせ下半身をタオルで隠し、状態を確認した。

「赤ちゃんの頭が見えていますね。」

その言葉に、俺も大輝さんも唖然とした。

「せんせ・・助けてくれ・・。俺の・・赤ちゃん・・。」

大輝さんは力なく発し涙をこぼしていた。

俺はそんな様子を見て大輝さんの手を力強く握った。

瑠奈はニコッと優しく微笑み

「大輝さん、予定日はあと2週間でしたよね?でも、もう赤ちゃんは十分に育っているのでいつ産まれても大丈夫ですよ!もう頭が見えていて、あと2回ほど力んだら産まれます!なので、ここで産みましょう!パートナーの陸斗さんには連絡しましたので安心してくださいね。」

他の俺は震えている大輝さんの手をしっかりと握った。

「頑張ってください・・。」

大輝さんは次の陣痛に合わせ強く力んだ。

「うあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

彼の叫び声が病院中に広まり、俺は怖くなり握った手を緩めた。

その様子に気づいた瑠奈が、

「しっかり握ってあげてね。それのほうが大輝さんも安心できるから」

俺はそんなまさかと思ったが、再び両手で彼の手を包み込んだ。

「痛い・・股に何か挟まってる・・。怖い・・。」

俺はこんな大柄で力強そうな人でも、こんなにも弱くなる程の痛さなのだと分かった。

「大輝さん、大丈夫ですよ!もう完全に頭が出ていますので、次の陣痛で一気に出しますよ!」

大輝さんは呼吸を整えていたが、再び強い陣痛が彼を襲った。

「うぅっ!!きたぁぁぁ!!」

「大きく息を吸って力んで!!」

大輝さんは先ほどよりも強く力み、顔が真っ赤になるぐらいだった。

「あぁぁぁぁぁ!!!産まれるぅぅぅ!!!」



その瞬間、俺は言葉を失うほど感動の瞬間を見た。

彼の下から小さな命が見え、産声を上げていた。

「おめでとうございます!元気な女の子ですよ。」

大輝さんは感激のあまり涙を流していた。

「産まれた・・。やっと会えた・・」

俺の手を顔につけ静かに泣いていた。

「坊主、ありがとうな。俺の手を握ってくれて。痛かっただろ?」

俺は感動のあまり泣きそうになったが堪えた。

「いえ・・、俺は大丈夫です。大輝さんのほうが絶対痛かったと思います。」

思わず無表情で答えてしまったが、そんな俺をみた大輝さんは「ふはっ」と笑った。

「そうだな、すっげー痛かった。俺が今まで経験したことのないほどの痛さだったからな」

大輝さんは現役のプロレスラーだった。ライバル相手との間にできた子供を授かり、活動休止を発表していた。妊娠したことは非公開にしているとのことだった。

やがて、大輝さんは病室に運ばれ無事に処置が終わり母子とともに健康だった。

あとから、パートナーの陸斗さんという人も到着して、自分の子供を抱えて号泣していて温かな空間だった。

俺はその光景を見守っていた。

「あいつも・・喜んでくれるかな・・。」

無意識に自分の腹を撫でた。

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男性専門産科病院~こいつが俺が産んだ赤ちゃん・・?~ スナムー @meimei30

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