第21話 終了
すべてが終わった頃、カラザは自身の隠れ家へと戻った。そこへ部下たちも戻ってくる。その中にはセルサスについていたブラウも含まれた。
カラザはひとり端末片手に別室へ向かう。セルサスと話があるとのことだった。
俺は早くそのもとに戻りたくて、うずうずとしていた。ここからは空港も近い。窓から軍のヘリが上昇していくのが見えた。
置いてけぼりを食らうはずはないが、やはり気持ちがはやる。
早く帰らないと──。
帰ってお茶を淹れるのだ。一番香りのいい、セルサスの好きなのを。
「…お前、帰るつもりか?」
窓際に張り付いて外を眺めていれば、唐突に尋ねられた。振り返ればそこにブラウが立っている。相変わらずの無表情だ。
つもりって。
まるで帰ってはいけないみたいだ。
「もちろんだ。もう、危険はないだろ? 俺だけ戻っても──」
と、そこへカラザが戻ってくる。俺はブラウとの会話もそこそこに駆け寄る様にそのもとへ行くと、
「なあ。もう、戻っていいか? いいだろ?」
しかし、カラザは首を傾けると、いい辛そうに頬を掻き。
「それなんだが──お前はここへ当分残されることになった」
「──へ?」
素っ頓狂な声を上げれば、カラザは肩をすくめつつ。
「代わりにアイレを連れて行くそうだ」
俺はがんと頭を殴られたような衝撃を受けた。
ぐわんぐわんと鐘が鳴る。殴られてもいないのに、そこへ倒れそうな勢いだ。俺はなんとか衝撃に耐えつつ。
「…なんでだ?」
声を振り絞った。
「本人たっての希望もあったが、単にセルサスが気に入ったからだろ? 短い間だが一緒にいてこれはと思ったんだろう。アイレも行きたがっていたしな。いい話だ。あいつはここにいていい奴じゃなかったからな? 代わりにお前を暫く預かってくれと頼まれた。ここに帝国軍が駐留することになる。その中の一兵卒としてな」
「……」
一兵卒。
俺はただ茫然としてそこに立つ。カラザが何か言っているが耳に入って来なかった。
俺は──見限られた…?
いや。そんなはずはない。セルサスは俺の事を気に入っていて──。帰ったら、俺のいれたお茶を飲むと笑んで答えてくれた。
なのに? ──いや、しかし。
もっと目を惹くものが現れれば、そちらに行きもするだろう。現に俺だってそう思っていたはず。
これで──終わりなのか?
自分がアイレに敵うとは、到底思えない。
それまでのセルサスとの全てが、まさに走馬灯のように目の前を巡った。
俺を川に放った時。闘技場で俺を見上げていた時。空港に向かう前、アジトで別れた時。
セルサスは確かに俺を気づかい、必要としていた。
それが──こうも簡単に終わるものなのか。いや。きっと何か理由があるんだ。
きっと。
信じられない。
信じたくない自分がいた。
◇
「──カラザ」
「なんだ?」
カラザは窓辺に立ち、去っていくヘリや軍用艇を眺めている。
彼らは当分ここへ駐留する。まだすべてを一掃できたわけではない。テロリストの頭も逃げたままだった。重傷を負ったはずで、そう遠くへは逃げられないと言われているが。そのうち探し出して捕えるつもりだった。
声をかけてきたのはブラウだ。その表情からは何も感情を読み取ることができない。ただ、付き合いの長いカラザだけは少し読み取れる。
今は──不満顔ってとこだな。
カラザは苦笑した。
「あいつを、ここへ残すのは人質か?」
あいつ、とはセトの事だと分かっている。面倒を見させているからだ。
「…どうしてそう思う?」
「あの男が、あいつを置いて行くとは思えない」
あの男とは、セルサスのことだろう。カラザは笑った。
「セルサスを見てそう思ったのか? たいして傍にいなかったのにな」
「見ていればわかる…。あの男は空港へ向かう最中もずっと気にかけていた。──なぜあいつに嘘を?」
「そうでも言わないと、セトは後を追っただろう? それじゃあ困るんだ。だから、連絡もつかない様にした。あいつがここにいる限り、セルサスは必死にこのイムベルを治めようとするだろう。奴を取り戻したい一心でな? 俺に弱みを見せた奴が悪い」
「意地が悪い…。セルサスは裏切るような男には見えない」
「かもしれないが。──ラファガの息子だと思うとな。どうしても安心できねぇ。イムベルにある程度、見通しがついたら帰してやるさ。だが、その前にアイレがその居場所を奪うかもしれねぇな。あいつはしたたかだ」
「…似たもの同志では合わない」
ブラウの指摘にカラザは苦笑する。
「かもしれねぇな」
それからまた、カラザは窓の外に目を向け、
「セトは?」
「部屋で休んでいる。扱いはどうする?」
「俺かお前の下につける。目を離すな。まだテロリストの頭が捕まっていねぇ。どうせ時間の問題だが…。セトの顔はばれている。ここにいると知られれば、とっ捕まってセルサスへの脅しに使われる可能性もあるからな?」
「…同じ穴のムジナか?」
「そう言うな。俺と奴とじゃ、求めているもんが違うだろ?」
「汚い手は一緒だ」
「…今日はキツイな?」
「俺の命はあんたに預けている。あんたの為なら死もいとわない。…だが、それとこれとは別だ。──あいつは汚れていない。そう言う奴を陥れるのは──気が向かない…」
「ふん…。なにもかもイムベルの為だ。嘘だろうと何だろうと餅だろうとつくさ。俺はその為にここまでやってきたんだ。使えるもは何でも使ってな」
「…話はそれだけだ」
そう言うと、ブラウは冷たい視線をカラザに向け部屋を後にした。
カラザは窓枠へ肩を預けると。
「──汚れてない、ね」
ふっと笑って首を振ると。
「汚れまくっているから、分かるんだろうな。俺もブラウも…」
外では爆音を上げてへりが上昇した所だった。
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