第1話 雪と栞 3
「ちゅっ……ちゅぅっ……っ……」
部屋に響く水音。
私の部屋には、もはや当たり前に二人の影があって。
その唇は酷く柔らかく、艶やかな感触で。
ずっとこうしてなぶっていたいような、一方でこんな風に触れてはいけないような。
やがて唇のみならず、延びる舌先が私の舌を絡め取り、より奥へと誘う。
口先で、深く、睦み合う。甘く、幸せな時間。
ただ、どういうことだろうか。
おもむろに、押し倒されて始まった秘めやかなキス。
恋多き彼女であれど、女の子との噂はない筈であったが。
これはもしや、私が初めてということだろうか。
ふと脳裏に浮かんだ、そんな優越感に満ちた想像。
それにしてもなぜ、彼女は私とこうしているのだろう。
舌先を絡め合う彼女の息は熱っぽく、まるで恋人と睦み合うかのよう。
おずおずと互いに受け入れ、求めていく私たちは互いに昂って。
小さくキスを続けながら、やがて衣服へと伸びた彼女の手は私の身体を脱がし行き。
僅かにずれて、首筋をなぶり、鎖骨から肩口、そして胸元へ。
興奮から屹立した乳首を、口に含んで、転がされれば、久しく感じる淡く甘やかな快感が私の体をふるりと震わせる。
我ながら決して小さくない私の胸に、彼女の手が、指が沈んで、その奥を捏ねるようにねっとりと激しく刺激する。
見れば、ブラジャーを露にした彼女の胸も大きく、深い谷間を作って魅せている。
夜毎男たちの欲望に満ちた手に、幾度も捏ねられ、揉みしだかれているだろうその柔肌。
やがてブラジャーからさらけ出されたその乳房は、酷く柔らかそうで。
重力に負けず、しかし重く滴るそれに、私は三度男たちの影を見て。
然れど今この瞬間だけは私の前だけにあるその裸体。
その事実に言い様のない優越感を静かに覚えて。
「んんぅっ……どうしたの?」
思わず愛しくなって、裸のまま彼女の身体を抱き竦める。
見事な曲線に括れた彼女の腰を撫でさするように手を回せば、豊満ながらも華奢なその身体が腕の中に収まって。
隔てるものなく、直接触れ合う地肌の感触が吸い付くように心地好い。
思わずその肩口に顔を埋め、その柔らかさと体温を堪能する。
やがてぽふりとベッドへそのまま沈み込み。
抱きすくめたままに横たえた姿勢。
間近で見る彼女の綺麗な顔。
途端に妖艶な印象を与える左目の泣きぼくろを指で擦って。
至近距離で交わる視線が互いの心を見透かすように熱く絡み合う。
「今日はえらく甘えん坊さんだねぇ」
「うん……いいでしょ、ちょっとくらい……」
言葉の通りどこか甘えるように彼女を抱いて、その質感を味わう私。
対して悪戯げに目を細めた彼女が、首筋に肩口に唇を寄せて。
吸い付くように執拗に、焦らすように巧みに。
何度も愛撫され、やがて潤いを纏ってひくつく私の秘所に指を差し入れ、くちゅりと、聞かせるように指先を埋没させていく。
うぞうぞと絡み付く肉襞を嬉しそうに掻き分け、私の内をじっくりと味わうように蠢かせる彼女。
届くところまで届き、彼女の指先を柔く窮屈に圧し潰す私に彼女はふっと笑いかけて。
「初めて人のに触れたけれど、気持ちいいね……ここ」
「詩織ちゃんの奥、熱くて……キツくて……」
「私に男の人のものがあったら……きっと気持ちいいんだろうなぁ」
その一言にドキッとして、思わず身体をびくつかせる。
「ああ、ごめんね」
「その……男の人のってね、グロテスクで。逞しくて。……でもふるふると震えて可愛らしいの」
「挿れられてるとたまにね……欲しくなるんだ」
そう呟く彼女の指は止まらず。
熱く情熱的な仕草を伴って、締め付ける私の奥を押し広げるように。
ゆっくりとかき混ぜ、時に折り曲げ引っ掻くように無茶苦茶に。
奥を荒々しく蹂躙され、押し寄せる暴力的で破壊的な快楽に、思わずシーツを握り寄せ、堪え忍ぶ私。
そんな様をどこか愉しそうに愛しそうに見ながら彼女は。
ふっと指先を抜き、するりするりと私の身体を下って。
固く閉じかけた太腿を割り開き、私の秘所へ顔を近付け。
「ふふっ……てらてらして、くちゅくちゅ言ってる」
射抜くように熱く熱っぽい視線で、観察するように、舐め回すように抉じ開けたその内を見やる彼女。
くちくちと、遊ぶように焦らすように秘所を弄ぶ彼女が、やがて愛しげにキスを落として。
「……ねぇ。女の子のここって、何だか花びらか、別の生き物みたい」
「神秘的で幻想的で……ほんと綺麗」
慈しむような様子で、下腹部に太腿にキスを落としながら。
どこかうっとりとした調子でそう呟く彼女の吐息がかかり、私は言い様のない羞恥と興奮に身を悶えて。
やがて滴る雫を啜るように、抉じ開けた秘所を舌先でなぶり、啄むように秘所を弄ぶ彼女に私は甘く快感を刺激され。
なだらかな、しかし抗いがたい快楽の中。
とどめに、剥かれた淫核を甘く押し潰され。
私は、酷く蕩けた、声にもならない矯声を上げて。
「ふふっ、イっちゃったね」
痴態を晒した私を抱きすくめながら、その髪を撫でる彼女。
のしかかる重みと柔らかさを素肌で味わいながら、暖かで穏やかな交合にその身を浸す。
ちゅうちゅうと、顔を埋めながら私はその首筋を肩口を啜り、柔く歯を立て、どこか甘えるように舌先でなめしゃぶる。
対抗するように彼女を組み敷けば、驚きつつも彼女は艶然と笑って。
柔らかく大きく零れる乳房を啜って、深く括れた腹を臍を舌先で撫ぜ、もっちりとした太腿をキスするように啄み愛でる。
交互に繰り返される愛撫の応酬はやがて激しさを伴って。
「んぅっ……! んぅぅっ……!」
「はぁっ、あっ……! はぁあっ……!」
互いの秘所を捏ね回しながら、私たちは夜の中で果て行き。
心地好い気怠さに包まれながら、甘く深いキスを何度も繰り返して。
どちらともなく倒れ込む最中、私は彼女の夜の表情を想っていた。
そして、全てが終わって。
二人寄せ合う枕元でふっと彼女の側から投げ掛けがあった。
「……うん……どう、だった?」
「心ないセックスと言ったらあれだけれど。大事なものをすっ飛ばして、心を置き去りにしたセックス、私は……好きだなって」
「恋人でないからこそ、剥き出しの欲望のまま、互いにそのまま堕ちていくような」
「まるで、一夜の過ちを何夜にも亘って続けているような」
「……そんな、爛れたどうしようもない性交」
「私が好き好んで耽っているのはそんなお遊びで……私の手を取るってことはそのお相手になるってことだよ」
「本当に、いいの?」
既に致した後に訊く辺りが彼女らしいけれど。
それでも真摯に、私にこの先の選択を迫る彼女。
……まあ、私の選択は決まっているけど。
そも、彼女と交わう男たちをどうとも思ってない辺り、彼女への独占欲なんてあってないようなもの。
そういう意味で私も、彼女に集る有象無象と同じと言えるのだろうが。
……むしろ何かの拍子に巡ってくるチャンスをものにするために。
彼女のそばにいられるなら、私はその方をこそ選ぶ。
つまり。友達のまま爛れて。
今は、このまま。
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