きらきら星

 プロのピアニストによる「きらきら星」を聴いたことがあるだろうか。
 きらきら星といったら、ピアノ初心者がやるあれだ。
 さて、ピアノ発表会にて、次は「きらきら星」だとプログラムには書いてある。出てくる演奏者は幼児ではなく大人である。
 会場はざわつく。
 ピアノを習い始めたばかりなのかな?
 出番を終えた子どもたちも、「きらきら星だって……」と笑っている。
 しかしひとたび鍵盤を鳴らすや否や、そこにはまったく次元の違うきらきら星が始まるのだ。

 大人が弾くのは主に「きらきら星変奏曲」というやつだが、出だしはよく知られたあの「きらきら星」だ。そしてそれは、私たちのよく知るきらきら星ではない。

 この掌篇、筋立てだけなら、中学生でも書くだろう。鬼滅か何かに嵌った子ならば、和風にあこがれ、似たようなことをお耽美に綴るかもしれない。読めば、里山と夜桜が脳裏に浮びもするだろう。
 しかし大人、それも玄人が書けば、ここまで持っていけるのだ。
 磨かれた一音一音が、あまりにもさらさらと流れていく、この巧さ。