ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした

結城ユウキ

第1話 プロローグ

 春というのは憂鬱だ。


 春は新たな出会いの季節というけれど、俺は今ある関係で十分だと思っている。



「お~い! 遊介~」


「こっちだ、こっち!」


 重い足をゆっくり進めていると、中学からの友人────二階堂と星野が校門の前で手を振る姿が目に入った。

 今日は、高校の入学式の日だ。

 周りにも同じ新入生と思わしき人たちが大勢いる。


「待たせて悪い。クラス表はもう見たか?」


「まだ見てねぇよ」


「遊介と一緒に見ようと思って待ってたんだ」


 二人と会うのは中学の卒業式以来だけど、この雰囲気が久々に感じる。

 今日から何度も通ることになるであろう校門を抜けると、張り出されたクラス表がすぐに見えてきた。


「すごい人数だな……」


「高校から、一気に生徒の数も増えるみたいだしね」


 二階堂の言葉通り、中学までは三クラスだった数も、高校では七クラスに増えているようだった。

 クラス表の前にはかなりの人混みができていて、名前を探すのも一苦労だ。


「一人だけ違うクラスはやめてくれよ~」


「星野ならどんな場所でもすぐに馴染めるだろ」


「おいおい、お前は俺と離れたら寂しくないのかよ」


「暇になるな、とは感じる」


「あはは。遊介は素直じゃないなぁ」


 そんな話をしながら、たくさんの名前が並ぶ表を目を細めて確認していく。


「えっと……」



 ────前田遊介まえだゆうすけ。その文字列はなかなか見つからない。



「わっ!」


「おわっ」


 クラス表を見ながら横に移動をしていると、同じように探していたであろう人とぶつかってしまった。

 幸い、転んではいないようでホッとする。


「ごめんなさい」


「こちらこそ、ごめん。怪我は無いかい?」


「俺は平気だけど。そっちは?」


「うん、私も大丈夫だよ」


 俺とほぼ同じ目線の高さのその人は、ほんの少し口角を上げて柔らかい笑みを浮かべていた。

 声とスカートで女子だと分かったけど、顔だけ見れば男子だと思ったかもしれない。

 中性的で整った顔立ちなのもあってか、明らかに周りとは違うオーラを放っている。

 二階堂もよく女子に間違われる顔立ちだから、中性的な顔は見慣れてるはずなんだけどな……。


「クラスは見つかった?」


「いや、まだ────」


「遊介! 俺たち三人ともC組だってよ!」


 俺が質問に答えようとしたところで、星野の声が割って入ってくる。

 どうやら、同じクラスになれたらしい。

 さっきは冷たいことを言ったが、クラスが離れていたら学校での面白さの九割は無くなるところだった。


「前田遊介くん。同じクラスだ。これからよろしくね?」


「あ、あぁ……よろしく」


 そういえば会話の途中だったな、と思い出して咄嗟に言葉を返す。

 なんで俺の名前を……そんな疑問が浮かぶけど、駆け寄ってきた星野を見てすぐに答えが分かった。さっきの呼びかけを聞いてC組の表と照らし合わせたのだろう。

 それならばと俺も名前を聞こうとしたけど、言葉を発するより先に、その人は人混みの中へと消えていってしまった。


「知り合いか?」


「あんな知り合いいるわけないだろ」


「にしても、カッコいい人だったね」


「だなぁ」



 新たな出会いは必要ない。特に、ああいう眩しい人間は。


 知り合いと同じクラスになれたことで、その気持ちがより強くなった俺だけど、現実がそう都合よく進んでくれないことは分かっている。


 俺の世界を変える始まりは、そんな出会いからだった。

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