雛と蛇
深川夏眠
雛と蛇
一人暮らしを始めるので荷物をまとめ、引っ越した。力仕事は概ね父が受け持った。
「この箱は……」
開けてみると母が買ってくれたお内裏様とお雛様だけのモダン雛が現れた。せっかくだから飾っておこうかと
即座に食い意地が発動し、
「お花見団子か桜餅でも食べたいな。でも、これ、何なの?」
「多分、ユナカイトっていう天然石」
検索してみた。
「なるほど。きれいね。どうしてここに?」
「うん……」
*
おまえが生まれる前に亡くなったお
パパが三歳のときだった。子供たちが他の用事や風邪などのために来られなくなって、その雛祭りの日、幼児はパパと五歳になるAちゃんしかいなかった。Aちゃん一人を主役に据えれば充分だったはずだが、二人を
天気がよくて暖かかったので、庭で
パパは好奇心が勝り、半裸で薄物の
お手伝いさんが手桶を運んでくると、三味線奏者が
「縁起物です。願い事が叶う
*
「学生時代にママと結婚したいと思って、念を込めた。社会人になって実現した。おまえも生まれたし、幸せだった。まさか病気で呆気なく別れる羽目になるとは考えもしなかった」
父は自身の手のひらに視線を落とし、
「もう元の十分の一以下だな。他にどんなことを願って、これっぱかしの残り
私は石を摘み上げた。とぐろを巻いた蛇の形に見えなくもなかった。
「後はおまえの分だ。少ないけれど、誰かを幸せにするために使いなさい」
【了】
*2025年3月書き下ろし。
*雰囲気画 by Midjourney⇒ https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/Dq7Tu6aM
雛と蛇 深川夏眠 @fukagawanatsumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます