第30話 私はイチゴが食べたい(4)

 一般的な包み方を実演してから「やってみよー!」ということで、エプロンを着けていざ巻き巻き開始――――


 五分が経過する頃には、個性豊かな餃子たちが私の心を鷲掴みする。


「いっちゃん、どうかな?」


 菜花ちゃんが包むタネは、菜の花を具にしたほろ苦おとなの春餃子。

 甘王家の餃子パーティに何度も参加しているだけあり、お手本のような餃子をしている。


「バッチリだよ」


 そう返すと、菜花ちゃんは丸い目をふにゃりとさせた。


 すると今度は菜花ちゃんの隣から蜀黍こがねちゃんが「ああ~」と声を上げた。


「まーた、太っちょになっちゃったよ~」


 お皿の上には、ふっくら餃子が並んで見える。

 冷凍のむきエビとトウモロコシ……は、入手出来なかったから今回は缶詰のコーンを使用。


 だから、大ぶりな具でふっくら包まれるのは仕様みたいなもので、むしろしっかりひだを折れているのが凄いくらいだ。


「大丈夫だよ、蜀黍ちゃん。夏餃子らしい、プリッと弾ける美味しさで間違いないよ!」


 親指と人差し指で丸の形を作ると蜀黍ちゃんは「えへへ」と、歯をニッとさせる。


「なんだか折り紙みたいで楽しいですね!」


木之香このかちゃん、いいこと言うねー……って!? 初めてとは思えないくらいすっごい綺麗だし、説明してないのにバラエティ豊か!?」


「ふふふ、予習とイメージトレーニングをしてきましたからっ」


 えっへん、と誇らしげに胸を張る木之香ちゃんの前に置かれた皿の上には、説明したオーソドックスな形の他に三種類の計四種の餃子が並んでいる。


 元宝包みと呼ばれる帽子みたいな形をしたものから、

 両端がねじねじされたキャンディ型に、


 あと一つは……何だろう?


「木之香ちゃん、私この形は初めて見るけど何がモチーフなの?」


「一応、手まりらしいですよ――」


 木之香ちゃんは皮を手の平に広げ、エリンギ、マイタケ、シイタケを微塵切りにしたタネをちょこんと乗せ、皮のふちに水を付け、それから手をクシャッと握り、開いた。


「――こうして作るとネットに書かれておりました」


 んん~斬新なお手軽感だ。


「丸めたティッシュみたいな餃子ね」


 うん、白菜しろなちゃんの指摘通り。そんな感じ。

 サランラップに乗せて搾るようにキュッと絞めて包めば、綺麗な手まりが作れるんじゃないかな?


「私も同じように感じていましたけど、シロちゃんに指摘されると腑に落ちないですね」


 調べて分かったけど、

 ハクサイの名産地茨城や栃木ではキャベツの代わりにハクサイを入れる地域も多いそうだ。

 私としてはニラも入れたいところだけど、癖も強いから今日は我慢してハクサイと豚肉だけのシンプルな、シャキジュワジューシー冬餃子にしてみた。


 それで白菜ちゃんが包んだ物は、形も大きさも不揃いで一番個性溢れている。

 形が様々だと、その度に驚きを味わえそうで一石二鳥だし、これはこれで私は結構好きだな。


「ねぇ……木之香? どうしてシロナに向けて手をわしゃわしゃ動かしているの?」


「せっかくシロちゃんに包み方のコツを教えてあげようと思ったのになー」


「や、ちょ……やめて! 手を汚したくないから、せっかく綺麗にスプーン使っていたのよ!? だからそのネチョネチョの指先でシロナに触らないでっ!」


 両手を包まれた白菜ちゃんの「ンギャーッッ!?!」と、女子高生にあるまじき悲鳴がキッチンに轟く。


「生温かいしネチョッとして気持ち悪かった。う、うう、シロナ、木之香に汚された……」


「あーちゃん? 今日は騒いでも平気? 没収されない?」


「今日は窓も閉めているし、たとえ声が漏れたとしてもお店で売っている野菜ばかりだから大丈夫だよ。それより……蜀黍ちゃんはどうして私の手を握ったの?」


 皮を持つために綺麗にしていた左手がネチョっと生温かい。


「ん~? いつかの仕返し的な? 無性に餃子が食べたいなって~?」


 その節は我を忘れて抱き着いたりしてごめんなさい。


「いっちゃんが担当のタネには何が入っているの?」


「これはね、菜の花とコーンでしょ? あとはシイタケとハクサイの全部まぜまぜ欲張り春夏秋冬餃子だよ」


「それは……凄そうだね…………」


 とっても凄く美味しい餃子で間違いないよ。


「ちなみに菜花ちゃんはどうして手を絡めたの?」


「こうしたら美味しくなるかなって」


 つまり隠し味的なやつかな?


「最高のスパイスは愛情とかいうやつね。けど、春乃のそれって隠し味なの?」


 白菜ちゃんがお手拭き片手に突っ込む。


「まあ、まあ、細かいことは良いではないですか。私はシロちゃんの分まで、苺さんへ真心を託しますね」


「シ、シロナだって! ……ガツンと主張の強い餃子もアリかもしれないからねっ!」


「じゃ、あたしは~……元気をあーちゃんにたーくそっと~!」


 最後に蜀黍ちゃんが手を乗せたことで円陣が完成する。


「ん~? これって初めての部活動になるのかなー?」


 蜀黍ちゃんの問いにそれぞれが首肯。

 それから期待の籠められた視線が私へ向く。


「不慣れで何を言ったら分からないけど、私たち野菜部(仮)一同」


「ごめん、あーちゃん。カッコ仮は締まらないから、今は省かない?」

「シロナも蜀黍に同意よ」

「早いところ正式に決めたいところですね」

「いっちゃん、明日の朝が期日なんだよね? このままだと野菜部(仮)が正式名称になっちゃうけど何かないの?」


 前々から考えていた活動名をこの機会に発表することを決め頷く。


「私たち日坂高マルシェ部――」


 菜花ちゃん、蜀黍ちゃん、木之香ちゃん、白菜ちゃんの順に目を合わせてみるが、反対意見は特にないようだ。


「でもやっぱりミックスベジタブルにしようかな?」

「「「「却下!!」」」」


 息ピッタリだ。いいことなのに、ちょっと悲しい。


 気を取り直して――


「――美味しく、可愛く、最後まで楽しく食べ切ろーっ!!」


「「「「おおおおぉぉぉぉ~~~~っっっっ!!!!」」」」


 肌に感じる気恥しさや青くささ。

 それらもスパイスに混ぜ合わせて包んで食べてしまおう。



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