第17話 私は初物トウモロコシが食べたい(8)

「大粒で~、柔らかいっ!」

「「おー!」」


 剥かずとも判る。


「甘くて~、ジューシーっ!!」

「「おーおー!!」」


 皮の下には間違いなく。


「ふっくら丸い~、高品質!!」

「「おー、おおーー!!」」


 黄金の実がぎっしり詰まっている。


「これが! 九州長崎産トウモロコシだよっ!!!!」

「「おおおぉぉーーっっ!!!!」」


 菜花ちゃんと蜀黍こがねちゃんを連れ帰宅すると荷物が二つ届いた。

 一つは笑住えすむからで、もう一つは美木さんから。

 逸る気持ちを抑え、二人をダイニングキッチンへご案内。


 それから、美木さんから届いた荷物の開封の儀を経て飛んだ。

 ふっくら美味しそうな13本のトウモロコシを見て飛んだ。


 筋肉痛? 治った!!

 尽きかけの体力? 全快!!

 だって幸せな気分になったから!!


「あーちゃん、すっごく幸せそうだね~」


「だって蜀黍ちゃん!! こんなに最高のゴールドラッシュが届いたんだよ!!?」


「んえっ? ゴールド、なに? 必殺技?」


「ふふふ、蜀黍ちゃんは面白いなぁ。このトウモロコシの品種、それがゴールドラッシュだよ! つまりトウモロコシニウムだよっ!!」


「そ、そうなんだー? でも、トウモロコシにスリスリされると、なんか……うぅ! って感じになるから止めてもらえたら嬉しい」


「分かる、わかるよ、夏玉さん。私もね、菜の花じゃなくて私を見てって気持ち、凄く分かるよ!!」


「? それはちょっとよく分かんない」


「……夏玉さんと争わずに済みそうで私は嬉しいよ」


「? やっぱりよく分かんないや。はーちゃん、ちなみにコレっていつまで続くの?」


「いっちゃんについては誰よりも詳しいって自負してるけど、いつまで続くのかは、その時々で変わってくるから私にも判らない……」


「そっかー、ま? あーちゃんも可愛いし? あたしも運動部だからさ、こういうノリも苦手じゃないからいいんだけど~」


 ま~ず~は~茹でるでしょう?

 芯ごと入れて炊くトウモロコシご飯でしょう?

 汗を掻いたから冷製ポタージュなんかもいいよね?

 むふ、むふふふ~それでも使い切れないよ~まいったな~~。


「お髭だってふっさふさだよ! この髭の本数だけ中には実が詰まっているんだよ!? フォッフォッ――て具合にお髭遊びもできちゃうくらいだよ!? お髭をさっと洗えば揚げておやつにだって作れるよ!!」


「はいはい。でも、采萌ともえ叔母さんに怒られるから、そろそろ静まろうね? いっちゃん」


「いや、はーちゃん。バッチリ写真撮ってたら説得も何もないって」


「? お髭いっちゃんとか貴重なシーンを写真に残さないなんて勿体ないでしょ?」


 うんうん、勿体ないよね。

 野菜は鮮度が命。

 収穫してからどんどん味が落ちていく。

 トウモロコシは中でも顕著に表れる。

 意外と知られていないけど、収穫直後は生でも食べられる。


 それならやっぱり早く食べないと勿体ないよね。


「うん! ラスト一回だけ歌ったらお昼にしよ…………っかなー、なんて?」


 元気よく振り返った真後ろには、采萌さんが仁王立ちしていた。


「……もしかして、うるさくてクレームとかきちゃった?」


 窓開けていたからなぁ、うっかり。


「クレーム、とはちょっと違うな。皆さん、微笑ましいと笑ってくれたから」


「あ、それならよかった」


 いつも気怠げな采萌さんがニコリと笑ったことで、お母さんがくれた『采萌が笑ったら反論したらダメよ』のアドバイスを思い出す。


「けどなー? トウモロコシは売ってないのか。食べたい、食べさせろとお客様たちがご所望だ」


「や……やるなー、私! 意図せず宣伝しちゃったのかー……はははー、はは?」


「店にない商品を宣伝したんだ。理解るな?」


 采萌さんは、とある場所へ視線をロックオンさせる。

 何が言いたいのか、何を要求しているのか、お客様を鎮めるために何が必要なのか、それを理解して、心でシクシクと泣きながら返事する。


「試食宣伝用に、は……半分! 半分の7本お裾分けするよ!!」


 反論しなかったおかげで、采萌さんは普段の表情に戻してくれた。

 戻してくれたけど!


 采萌さんが去った後に覗いた箱の中には、たった3本しか残されていなかった。


 う、ううう……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る