ゆううつなおひなさま

愛田 猛

ゆううつなおひなさま

おひなさまは、ゆううつでした。


ひなまつりがおわると、むしよけのにおいがする、くらいはこでまた一年すごすのですから。


かざられたままで、ももちゃんに「かわいいと言ってほしいのです。


ひなまつりのよる。


おひなさまは目をさまし、こっそりみんなのところにいき、ささやきました。


お父さんに「おひなさまをかたづけちゃうと、ももちゃんがすぐにおよめにいっちゃうよ。」

お母さんに

「ももちゃんに自分でおかたづけさせようよ。」。」

そして、ももちゃんに

「もうちょっとかざっておこうよ。」


つぎの日、お父さんは言いました。

「すぐにかたづけなくてもいいよ。」

お母さんも

「お母さんはかたづけないわ。」

そして、ももちゃんも言いました。

「もっとかざっておこうよ。」


おひなさまは、かざられたままになりました。


おひなさまは、はしあわせでしたが、そのうちに、あれ?と思いました。


ももちゃんが、「かわいい」と言ってくれなくなったのです。



おともだちが、やってきても、「まだおひなさまかざってるの?へんだよ。」

といわれるだけでした。

おひなさまはがっかりしました。



あるよるのことです。おだいりさまがおどろきました。


「おひなさま、そのかお、どうしたの?


おひなさまが、かがみを見てみると、白くてきれいなかおに、みどりいろのボツボツができていました。


「きゃー。」おひなさまはさけびまし

かおにカビがはえていたのです。


おだいりさまのかたながとれ、かんじょのふくにあながあきました。


カビ、ほこり、そしてむしくい。おひなさまたちはボロボロになってしまいました。


「こんなのいやあ、早くしまって!」


さけんだところで、おひなさまはめをさましました。おそろおそるかがみを見ると、かおは白いままでした。

「よかった、ゆめで…」おひなさまはほっとしました。


それから、おひなさまは、ねむっているみんなのところへ行って、「早くかたづけてね。」と、ささやきました。


つぎの日、ももちゃんたちは、みんなでおひなさまをおかたづけしました。


虫よけを入れて、きっちりはこをとじます。



「みんな、ちゃんとかたづけてくれてありがとう。らいねんもまた会おうね。」

おひなさまは、しずかにねむりにつくのでした。



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