Chapter2.5 土人形で農業革命

ExtraEpisode1 土人形

 山奥に在る工房。

 その裏手に回ってみると、野菜や果物を育てている畑が存在する。


 この工房の主人及び従者であるメイカとローズは、毎日店や家のことで忙しくしている。

 ではこの畑、一体誰が管理しているのだろうか。


 答えは──


「──♪───♫」


「──!」


 畑をパタパタ移動し、水をあげている小さな影。

 そう、この畑は達によって管理されているのだ。


 彼らは土の魔石を、親和性の高い土偶どぐうにはめ込むことで動いている。

 実は彼らの存在は、メイカが魔法使いとして名を馳せるのにも貢献した。


 土属性は、土の操作が主である。

 だが約三十年前まで土魔法は戦闘や整地にしか使われておらず、農業で使った事例は殆ど確認されていなかった。理由は、スロースピードで耕すくらいの使い道しか無いと思われていたから。


 しかし、とある博士の研究によって土属性には成長を促進させる効果があることが証明された。

 同時に、一般人が使う土魔法レベルでは効果が微々たる物だが、出力が上がれば上がる程効果は倍増していくことも証明された。


 農民では殆ど使えないことから、その当時はどこの田畑でも使っている人は居なかった。


 唯一の事例として、王族が魔法使いを雇って畑の管理をさせていることもあった。

 しかし、他属性の魔法の使用許可が出ない管理者は不遇とされ、その力を腐らせていた魔法使いが暴動を起こしたことでその役職は廃止された。


 それから土魔法が発展すること無く月日が流れ、だいたい二十五年後。

 皆が完全にその事を忘れそうになっていた時、十代の少女が農業のサポートをしてくれるゴーレムを造った。


 魔物の核を使うことで魔力タンクとしての役割も持たせ、人間では出来なかった強力な土魔法の行使を身体への影響無しに可能にした。


 その少女こそ当時5歳のメイカであり、『魔石を使用して負荷を軽減する方法の確立』という功績によって、魔法使いの中で一目置かれる存在となった。


 メイカがローズを造る前、基盤となったのがこの土人形だ。この土偶を元に人形達の仕組みが作られたと言っても良い。

 言わば、自我持ち人形達のプロトタイプなのだ。


 しかし、比較的手に入れ易い素材にも関わらず、土人形達が流通することは無かった。

 その理由は、土人形にメイカのゴーレム魔法を使っているからだ。


 ゴーレム魔法の最上位である『永久化』は、停止しない限り半永久的に起動させる事が出来るのだ。

 これによって並の魔法使いでは再現する事は出来ず、出来てもすぐに止まってしまう。


 それから数年後、とある別の功績によって表彰された時、報酬としてこの工房がある山を貰った。

 それから人形工房【ガラティア】を開店し、人形売りを始める。その人形の中に土人形も含まれていた事で、そこそこお金を持っている農民レベルなら入手することが出来る様になった。


 つまりこの土人形は、魔法使いに名を馳せる一歩。そして、一般人に名を知って貰う一歩として活躍した、ある意味一番の功労者なのだ。


 そんな過去がありながらも農業管理者として工房を支える土人形達のおかげで、人里離れたこの工房でも野菜や果物を食べられている。


「──♫───♪!」


 もっとも、本人達はその自覚は殆ど無いだろうが。


 それは兎も角、メイカが当時何を考えて、どう制作に至ったのか。ご覧いただこう。

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