第7話
煌めく銀髪は、艶やかな黒髪に。ハーフアップをして、星のクリップで留める。
顔を半分覆い隠す仮面は、青い瞳を引き立たせる黒い色。
動きやすい服装も黒色で、金色の装飾が織りなす。
「怪盗ステラ、参上いたしましたわ」
「あれ、奥様は?」
ノアが部屋に戻ると、エリックがすぐに気づいた。
リリィの姿を探して、キョロキョロと辺りを見回す。
「帰ったよ」
「え、なぜです?」
「具合が悪いんだよ!」
ノアは、エリックの胸元を掴み上げた。
「お前、よくも僕の妻を連れてきたな! 具合が悪いのにリリィは無理してきたんだぞ!?」
「そんな風には見えませんでしたけど」
「と、とにかく、リリィは僕の妻だ! 勝手に連れ出すなど許さん!」
リリィは淑女だから顔には出さぬのだ、そう言って妻自慢が始まったノア。
妻があーで可愛い、こーで可愛いと語り続ける。
この人、結婚しない方がよかったんじゃないか?
エリックを含む皆がそう思った、そのとき。
パァァ。
部屋の真ん中で、小さな光が現れた。
それは簡単な魔法陣を描くと、光の中で人影を映し出していく。
「あら、ごきげんよう」
その中から現れたのは、空色の瞳の怪盗だった。
「出たな、怪盗ステラ!」
ノアから解放されたエリックが、怪盗に向かって叫ぶ。
そんな姿を見て、怪盗ステラは微笑んだ。
「警備が薄すぎませんでしてこと? やる気がないのかしら。ねぇ、名探偵さん」
怪盗ステラは、『乙女のティアラ』を持ち上げながら言う。
女性にしか触れないティアラ。それを手に取った怪盗ステラはにやりと笑う。
そして、黙っている名探偵に向かって、不敵に見下ろした。
まるで、挑発しているように。
その様子を見ていたノアは、ふっと笑った。
「お前が入りやすいようにしてやったんだよ、偽物め」
「え!?」
ノアがそう言い放つと、エリックが声を上げた。
周りにいた警備隊たちも、目を丸くしてノアを見る。
ティアラの持ち主も、素っ頓狂な声を出した。
「ど、どういうことですかい!?」
「どうもこうも、簡単なことだ」
ノアはふふんと胸を張った。
「本物の瞳は、海の青のような色をしている。それに、魔法陣はこんなに小さくないし、口調もおかしい。『警備が薄すぎませんでしてこと?』って、おかしすぎるだろう」
「……っ、私は本物でしてですわよ!」
「ほら、その口調だよ。僕を欺こうとしても無駄だ」
ノアは、内ポケットに手を入れた。
そしてそこから取り出したものを、怪盗ステラへ突きつける。
「会員番号5番! 怪盗ステラファンの僕が言うんだから、間違いない!」
「……最後ので台無しですね」
ファンクラブカードを突き出し、自慢げに言うノア。
その後ろでエリックがため息を吐いているが、彼が気づくことはなかった。
「だ、だから何よ! ただの怪盗を参考にしただけよ、別にいいじゃない!」
あっという間に開き直った『偽物』は、焦りながらも声を張り上げた。
「そんな『偽物』にティアラを盗られて、さぞお恥ずかしいこと。国一番の名探偵の名が廃るわね」
煽りに煽った『偽物』は、魔法陣を描き始めた。
小さなそれは、光を灯して浮かび上がる。
「ティアラに触れないのに、どうやって守るのよ。バカね」
彼女は、あははと笑った。
声高らかに笑うその様は、自分の勝利を確信しているよう。
そんな姿に、ノアの怒りは頂点に達した。
「貴様! いい加減に……!」
「では、またね」
ノアの怒声など気に留めず、『偽物』は魔法陣を発動させた。
そして、その場から消えていく──。
「あら、ごきげんよう」
しかし。
彼女の魔法陣は、発動することがなかった。
光が消え、シュウウと魔法陣が崩れていく。
「え!?」
「華麗な盗みではございませんわね。『怪盗ステラ』は、鮮やかに盗むことにこだわりを持っていますの」
『偽物』の後ろから響く声。
明らかに大きな魔法陣。
まばゆい光を放ちながら立っていたのは、『怪盗ステラ』だった。
「あ、貴女はまさか……!?」
「正真正銘の『怪盗ステラ』でしてよ。お目にかかれて光栄でございますわ、偽物さん」
海のように、鮮やかで濃い青の瞳。
艶やかな黒髪と、黒い仮面。
立っているだけで、その場を圧倒する魔力。
そう、彼女こそ──。
「怪盗ステラ!」
「本物だ!」
月夜に輝く怪盗。
本物の『怪盗ステラ』が、いつの間にか佇んでいた。
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