探偵の溺愛している妻が、実はライバル怪盗だった件について
nano
第1話
「追い詰めたぞ、怪盗ステラ! 今日という今日は捕まえてやる!」
お決まりのセリフ。
堂々と言い放った名探偵は、胸を大きく張った。
「観念しろ!」
「あら、旦那さま。ようやくですわね」
「……ふぇ!?」
溺愛している妻がライバルだった。
王国一番の名探偵。
その名もノア・ヴァイス。
伯爵家当主でありながらも、その頭脳で探偵業を熟している。
頭脳明晰で冷静沈着、クールだけれど燃えるような赤い瞳。
超イケメンの彼に群がるファンは、後を絶たない。
だが。
「リリィ。君を愛しているよ」
実際のところは、妻にデレデレな旦那である。
「今日も可愛いね。煌めくような銀髪は、まるで雪のようだ」
「よくそんな恥ずかしいセリフを言えますわね」
屋敷の私室。
ノアは、今日も妻・リリィを愛でていた。
ソファに座り、リリィの髪をそっと撫でる。それが、至福の時間らしい。
「あぁ。今日起きたことも全て忘れて、君だけを見ていたい」
「気持ち悪いですわ」
「酷い!」
リリィは、ばっさりと言い放った。
ノアの手を振り払って、ソファから立ち上がる。
「忘れてしまわれては困りますわ。改めて、言わせていただきますね」
リリィは、ノアの前に立った。
ドレスの端を丁寧につまみ、流れるような所作でゆっくりと礼をする。
銀色の艶やかな髪は肩からさらりと落ち、煌めく青い瞳はノアをそっと捉えた。
「ごきげんよう。『怪盗ステラ』ですわ」
ノア・ヴァイス。
クールに推理をし、華麗に犯人を捕まえる。
伯爵としての仕事も完璧、剣の腕前も上々。
神様から愛されて生まれたとしか考えられないほど、非の打ち所がない性格。
それなのに。
「なんでだぁぁぁぁあ!!」
残念なものである。
*
「あ、あの美術館の絵は?」
「王女様のものでしたね。盗み返して戻させて頂きましたわ」
「希少価値の宝石は?」
「あれは確か、悪徳侯爵が国庫から盗んだものでしたわね」
「け、結婚指輪のサファイアは……?」
「納品される途中で盗まれたものですわ。
「うぉぉお!!」
リリィの薬指に嵌められている、サファイアの指輪。
これは、ノアが持てる財産をつぎ込んで作らせた一点もの。
リリィにプロポーズする前日に、何者かに盗まれてしまったのだ。
名探偵はそのプライドを捨て、やむを得ずライバル怪盗に情報を流した。
『貴女のライバルが、貴族の宝石を盗んだ』と。
闘争心を燃やさせ、盗むように仕向けた。
それがその、指輪である。
「まさか自分が盗んで差し上げたものが戻ってくるなんて、思いもよらなくてよ」
「それはこっちのセリフだ……」
盗まれたところで、少し情けない。
持ち前の頭脳ではなく、怪盗に身を委ねたところも情けない。
怪盗は、情報通りに盗んでくれた。
そして。
「サプライズでもなんでもなくなってしまったじゃないか!」
その指輪を、リリィにプレゼントした。
つまり、怪盗(リリィ)に盗み返してもらい、愛して(リリィ)いた人にプロポーズしたのだ。
言語化すると余計に情けない。
「この方はサファイアの指輪でプロポーズするのだと、思いもよらぬところで知ってしまった私の身にもなってくださいませ」
「そんなの知らん」
知っていたら、こんなことにはならなかった。
少し間抜けな夫婦(新婚)である。
「ま、まぁ! 細かいところは後で考えればいい!」
「はぁ」
「リリィ」
ノアは決心したように、リリィを見た。
片膝をついて、リリィの手をそっと取る。
見よう見まね、ノア特製の『完璧王子様スタイル』だ。
「それでも僕は君が好きだ。愛している」
「……ズルいですわ」
リリィは、頬を真っ赤に染めた。
まんざらでもないような顔を見る限り、リリィもノアのことが大好きなのだろう。
いい意味で、いいカップルである。
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