ひなまつりは君と一緒に…
伊崎夢玖
第1話
「ずっと一緒にいようね」
そう約束したのはお互いが五歳の頃。
幼稚園で友達ができない俺に、家が隣同士ってだけでなぜかずっとそばにいてくれたリコ。
彼女がどういう思いでこの言葉を言ったのか、大人になった今では分からない。
だが、俺はこの言葉に救われて今に至っているのは事実。
それを反故にして、ほかの男と付き合うなんて絶対に許さない。
「またね」
リコのかわいらしい声がイヤホンから聞こえる。
それと同時にチュッとリップ音がした。
付き合っている男との別れのキスをしたようだ。
五歳の頃にした約束を忘れているのか、今では俺のことを煙たそうに顔を顰めて見てくる。
それでも、構わなかった。
好きの反対語は『嫌い』ではなく『無関心』。
顔を顰めるということは、ただ嫌われているというだけ。
何かイベントさえあれば、ワンチャン好きになってもらえる。
今日、俺の中でずっと練っていた計画を移すことにした。
リコの家のピンポンを押す。
今日はリコの両親は家にはいないのは把握済み。
今、家にはリコしかいない。
インターホンで応答するかと思いきや、不用心にもリコ本人が玄関先まで出てきた。
「……なんだ、アンタか」
「『なんだ』とは挨拶だな」
「どうだっていいじゃん。……で、何の用?」
「ちょっと聞きたいことがあって……」
「ほかをあたって」
「リコじゃないとダメなんだ」
「アタシの名前を呼ばないで」
「……分かった。名前は呼ばない。困ってるんだ……頼むよ」
親指で自分の家を差し、来てほしいとジェスチャーをする。
わざとであろう大きい溜息をひとつついて、嫌々といった顔をしながら家の施錠をしてついてくる。
「こっちだ」
玄関の鍵を閉め、リコを先導する。
リコはというと、どこへ連れて行かれるのか不安そうにしている。
いくら家が隣同士だからといっても、間取りまでは知らない。
自分の部屋に誘導するのは簡単だった。
部屋に入るや否や、とある筋から仕入れた怪しい液体を染み込ませた布でリコの鼻と口を塞いだ。
(違法性のあるものではないとは言っていたけど、用法用量を間違えるとヤバイ代物になると忠告されていたんだっけ……)
最初のうちこそ「ん゛ん゛ーっ!!」とジタバタと抵抗していたが、どれくらい時間が経ったか分からないが、いつの間にか静かになっていた。
そっと鼻と口を押えている布を離すと、そこには目の焦点があっていない脱力した状態のリコが出来上がっていた。
物言わぬ、ただの生きた人形となってしまったリコを俺は力いっぱい抱きしめた。
ようやく手に入れることができた喜びをかみしめるように。
♪おだいりさまと おひなさまぁ~
ふぅ~たりならんで すましがお~
部屋の中に童謡の『うれしいひなまつり』が流れている――というより、流している。
なぜなら、今日はひな祭り。
お内裏様は俺で、お雛様はリコ。
二人でベッドに並んでいる。
無表情ですまし顔ではないが、隣にいてくれるだけでいい。
いつ意識が戻るか分からないが、これでずっと一緒にいられる。
幼い頃に交わした約束は永遠に……。
ひなまつりは君と一緒に… 伊崎夢玖 @mkmk_69
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます