2度目のひな祭り
房宮咲
第1話
私には父親がいない。
死別した訳では無い。
物心ついたときから父親はいなかったが、母の家族、妹夫婦、親戚が近くに住んでいたためよく遊んでもらっていた。だから寂しさはあまりないと自分では感じている。
私達は母、私、弟の3人家族だ。
周りの人たちは私達を可愛がってくれた。
小さい時から誕生日や、イベント事などはみんなで集まってご飯を食べたり、親族で旅行も行った。
楽しいし、何不自由はない。
ただ、父親がいないだけ。
小さい時によく遊んでもらっていたような記憶があるが、顔などは思い出せない。
何度か母に聞いても濁されるだけだったのでその内聞くのをやめた。
周りも父親の話を特にすることはなく私達家族にはそれが当たり前だった。
母は30で私を産んだと言っていた。
弟は2年後。
その時は父親はいたらしい。
高校生3年生で迎える18歳の誕生日。
私はふと、母に尋ねてみた。
「父さんってどんな人?なんで別れたの?」
母はとても天真爛漫で周りからとても好かれる人だった。決して外で泣くようなことはせず、弱音を吐くところも見たことがない。母はとても強い人だった。
いつかの夜、携帯を握りながら寝ている母を見た。
手に派携帯が握りしめられそこには、若い頃の母と父親らしき人の結婚式の写真だった。
和装の結婚式で2人はとてもうれしそうに笑っているが、父親はなにか恥ずかしそうな顔をしている。
身長は高くないものの体格がガッチリしているため、何かスポーツをしていたのだろうか。
弟の体格の良さは遺伝かな。なんて色々考えていた。
母にそのことを伝える。
「そっか。。見ちゃったんだ。もういい年だもんね。あなたの父親は。。。」
話を聞くとこうだった。
父親はギャンブルが好きで何度か母に止められていた。私が生まれて、弟が生まれて。とても幸せだったと語っていた。スポーツをしていて、クラブチームで活動をしていたらしい。週末は試合を見に行くのが楽しみで、私も小さい頃に見に行ったと写真を見せられながら説明された。
しかし、ある時隠れてギャンブルをしていたことがわかった。しかも金額が大きいこと、友達に借りていたこと。
そのため出稼ぎで遠く離れた土地で父親は一人暮らして返済のために仕事を始めた。母も最初のうちは一緒に返済頑張ろう、離婚は絶対しないと思っていたそうだ。1ヶ月が経った頃、一人での子育てと心労のため、父親とはもう戻れないと思ったらしい。
それが私が2歳の時の出来事、弟はまだ生まれて半年だった。私たちには二度と会わせないと誓ったそう。
「本当に好きだったから何度も許したし、いい父親ではあったけど、金銭感覚だけがおかしくてその部分のマイナスが大きすぎたの。」
「でも、あなたたちを産ませてもらったし、感謝してる。」
「幸いわたしには、まわりに支えてくれる家族がいたし、可愛いあなたたちもいるから毎日楽しかったよ。」
「もう連絡とかしないの?」
「もうしてないかな。向こうはなにしてるかなんてわからないし。」
「わたし会ってみたい。父さんに。」
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