第8話 杖の旅
「いやっ…申し訳っ…ないっ…ぐすっ。」
「いや、いいんですけど…大丈夫ですか?」
「大丈夫にっ…見えるかっ…。」
「す、すみません?」
王は自身の娘にボロクソに言われて泣いていた。
流石に哀れになってきたのでレイラは今回の件を水に流すことにした。
「で、では失礼致します…。」
「ああっ…ぐすっ…。」
〜〜
王城から帰る途中、先ほどの執事さんが申し訳なさそうにこちらに話しかけてきた。
「すみません。先程のフェンリル討伐の報酬を支払わせていただきます。」
「ああ、忘れてました。」
王の印象が強すぎるあまりに本来メインであったはずのフェンリル討伐の報酬を忘れていた。
「はい、お手数おかけするのですがまた別の部屋に来てもらえませんでしょうか?」
「あ、はい…。」
本来なら先ほどの謁見の間で報酬を渡されるのだろうが王が泣き始めてそのままだと居心地が悪いので流れに乗って出ていってしまったためこうなっているのだとわかったレイラとアベルは少し申し訳なく感じた。
「こちらの部屋です。」
「うわ…!」
アベルが部屋の中にあった金銀財宝を見て思わず感嘆の声を出す。
それもそのはず、部屋には大量の『ハク』が置いてあった。
※ハクとは、この世界におけるお金の名前。日本のお金の感覚で言えば100000円が1つになったお金。
「こんなに貰っていいんですか…?」
「ええ。なんせ400年もの間討伐依頼が来ていたにも関わらず達成されなかったものですので。」
「それにしてもこんな…。」
アベルがお金の量に驚く一方でお金に無関心なレイラは興味が無さそうに周りを見渡していた。
するとレイラの視界に1つの本が目に入る。
それはーー。
「これ、お婆ちゃんが書いた本…。」
そういうと、執事は目を丸くする。
そして、聞き間違いの可能性を考慮して聞き直す。
「…今、なんと?」
「ん、お婆ちゃんの書いたほんだよ。これ。」
「…は?」
アベルも驚きのあまりうまく感情を言葉に表せずにいる。
「いやいや、レイラ。だってそれ、色んな魔法に原初魔法についての研究結果が書かれた本だぞ?この本はこの国の国宝だぞ?」
「うん、そういえばお婆ちゃん友達にこの本をプレゼントするって言ってた。友達の誕生日に。」
「え、その友達ってのはもしかして…?」
「この国の王様だったみたいだね。」
その言葉に再び執事の目は見開かれ、アベルは空いた口が塞がらなくなる。
「この様な方に、陛下はなんという無礼を…!」
執事は目を覆いながらため息混じりにそう呟く。
「とりあえず、この部屋にあるもの貰っていいってことなんですか?」
「は、はい。」
「じゃあお金は全部アベルのでいいよ。私はこの本貰ってくから。」
「え、お金全部俺が貰うのは流石に…。」
「いや、私ほんとにお金はいいから。あ、それともこの本読みたい?あげるつもりはないけど貸そうか?」
「いや、ありがたく借りるけど!」
そんなこんなで結局2人はお金を4:6の割合で山分けすることになった。
4の方がレイラである。
アベルは自分の方がお金を貰うことを断ろうとしたが、レイラが本当にいらないと言うので仕方なく貰うことになった。
そして、1週間がたった。
「いらっしゃいませ、ってアベルか。」
「ああ。」
「今日は何の用事?」
王城に出向いて以降今日まで会っていなかったレイラとアベルは用事がなければ会う必要のない関係だったのだが…。
「店を畳むそうじゃないか。」
「ああ、知ってたんだ。」
「理由を聞こうと思ってな。」
そういうと、アベルは店の端から商品として飾ってある杖を歩きながら見始める。
「理由はね、ちょっと旅に出ようと思って。」
「旅?またか?」
「うん。こんな都市の端っこに店を構えても人との関係は築けないって分かったし。それに…。」
「それに?」
「フェンリルの件で少し確かめておきたいことがあって。」
「そうか…。しかしそれは思い通りには行かないんじゃないか?」
そういうと書類作業をしていたレイラの手がピタリと止まる。
「なんでそう思ったの?」
「いや、旅に出るということは別にいいと思うが旅の目的は今までと変わらないんだろう?」
「そうだね。」
「それだと今と同じことを繰り返すだけだ。流石にフェンリルの様な伝説の神獣との激闘を繰り返すことはないだろうが。」
「それでもいつかは変わるんじゃない?」
「まあ確かにいつかは変わるだろうな。何十年後か、何百年後か。もしかしたらまた1000年経ってしまうかもしれない。それに、今回の件でフェンリルを倒しておそらく各国のお偉いさんには名前が知れ渡ることになる。そうすれば、レイラの旅も思い通りに行かなくなるだろう。」
「それは…。」
「そこでだ。俺は1週間後にはまた旅に出ようとしていてな。何のための旅か分かるか?」
「さあ?強くなるためとか?」
「勿論それもある。でも、俺がメインにするのはそれじゃない。」
「じゃあなんなの?」
「杖だ。」
「杖?」
「そう。俺はレイラの杖の手捌きを見て杖に興味が出てきてな。だから俺は杖を知るための旅をする。いわゆる、」
飾ってあった杖を見ていたアベルはレイラの方に向き合いレイラの目を見て言う。
「杖の旅だ。」
「…それを私に言ってどうするの?」
「ああ、これを踏まえての提案なんだがレイラ。君の旅に俺を連れていってみないか?」
「!」
「俺がいればレイラは人と関わることが多くなるだろうし俺はレイラから杖のことについて教わりたい。お互い利益があるだろう?」
「なるほど…。」
レイラは持っていた羽ペンを置き思案する。
自分ひとりで行こうとしていた旅にアベルがついてくることになる。
アベルは魔導士なため未熟な魔法使いではないしレイラの足を引っ張る様な真似はしない。
むしろ人との関わり合いの機会に教えてくれるためプラスの存在だ。
「…分かった。一緒に行こう。」
「ほんとか!ほんとにいいのか!」
「うん。」
自分の利益のことについて考えていたレイラは不意にそんなことを考えなくとも自分はアベルと旅をしていたんじゃないかと考える。
なぜなら、たまには別の人との旅もしたいみたいものだと思っていたからだ。
そう考えついたレイラは珍しく、表情を崩して小さく微笑んだのだった。
「ん、今笑ったか?」
「笑ってないよ。」
「気のせいか…。」
こうして風の魔導士が1人、凍てつく魔女が1人の杖の旅が始まった。
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王様はレイラ達が旅に出るということを知らないので引き止めることができません。
どんまい王様!
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