第7話 王城

「これが王様からの呼び出し状です。」


「…ふむ、本物であるな。よし、ここを通ってよし!」


「ありがとうございます。よし、行くぞレイラ。」


「うん。」


そう言ってレイラはアベルの跡をついていく。

王城は至る所に金の塗装が施されておりレイラは目がチカチカした。


「あんまり王様と趣味合わないかも…。」


「悪い人ではないんだけどな…。ただちょっと癖が…。」


「癖?」


「ああ。あの人、親バカなんだ。」


「…そっか……え?」


予想の斜め上の返答に困惑するレイラ。

レイラが難しい表情をしていると王城の大きな扉の前に来た。


「ようこそおいでくださいました、アベル様。レイラ様。ここから謁見の間までは私が案内します。」


「ああ、ありがとう。」


そう言ってアベルとレイラは執事らしき青年についていく。

そこでレイラが小声でアベルに質問する。


「ねえアベル。もしかして王様って癖が強くて話しにくい人だったりする?」


「…ああ。少しな。」


「今の間ちょっと怖いんだけど。」


「まあ、大丈夫だろう…多分。」


「そこは絶対って言ってよ…。」


そうこう話している間にまた大きな扉の前に辿り着く。


「どうぞこちらです。」


そう言って執事は大きな扉を開ける。

すると、中には大きな窓に囲まれて陽の光が入ってくる綺麗な部屋が出てきた。


「…趣味が変わった?」


そうボソッと呟きながらレイラはアベルの後ろをついていく。

アベルはある程度前にくると、玉座の前に跪いた。

レイラも真似する。


「失礼します。陛下よりいただいた招待状に従い参りました、アベルです。」


「同じく招待状に従い参りました、レイラです。」


「ふむ。」


そう言って王は偉そうに足を組む。

王の印象は美青年。

金髪の髪に金色の冠を被っており赤いマントを羽織っている。


(やっぱり王城の金でできてた構造は王様の趣味だったんだ…。)


と、レイラは思った。

すると、王は口を開く。


「…はぁ。堅っ苦しいのう。」


「えっ。」


「…。」


その一言にレイラは思わず驚きの声を上げ、アベルはもう慣れたかの様に無反応。

執事に関しては後ろで頭を抱えている。


「アベル。いつまで頭を下げているつもりだ。余と其方との関係はそこまで堅っ苦しいものではないだろう。」


「個人的な関係の前に立場というものがあります故。」


「はぁ。其方はいつもその様に…して、其方の隣にいる者が其方が言っていた…。」


「はい、共にフェンリルを討伐した仲間であるレイラです。」


「初めまして。ただのレイラです。」


「カカッ。フェンリルを討伐しておいて『ただの』と申すか。」


「…。」


「だんまりか。」


そう言ってもレイラは何一つとして喋らない。

しかし、それは仕方のないことだ。

レイラからしたら人間の中での呼び声などどうでもよく、そもそも人間とあまり関わらない生活を送って来たためなんと言われようが答えようがないのだ。


「…まあよい。それより、余が呼んだ理由についてだ。正直、報酬を渡すだけであったらすでに決められたものがあるためわざわざこの様なことはせぬ。」


「では何故?」


「アベルに関しては世間話でもする機会であると判断したが、隣のレイラとやらは違う。」


「私ですか。」


「ああ、そうだ。聞けば余らの子を店に閉じ込めていたそうではないか。」


「…え?」


「何を困惑した顔をしている。日中どこにいるかわからない日々が1ヶ月も続いたのだぞ。」


「それは…。」


それが普通なのではと言おうとしたレイラは言葉をぐっと飲み込む。

もしかしたら人間は子供を極限までそばに居させる種族なのかもしれないし今ここでそれを言おうというのならば殺されそうな殺気が放たれているためである。


「陛下、落ち着いてください。何か行き違いが生じています。」


「行き違い?」


「はい。まず第一に私はあなた様の子供の顔も名前も知りません。」


「何?では毎日貴様の店に入っていたという情報が嘘だということか?」


「はい。」


「町中から情報を集めたのだぞ?」


「それでも心当たりがありません。」


「…じい。この情報は確実なのだろう?」


そう王が呼びかけると先程案内してくれた執事の爺さんが前にでて反応する。


「はい、確かです。しかし、あくまで情報は見ただけなので監禁していたという証拠はありません。レイラ様、店に毎日来ていた子供はいませんでしょうか。」


「店に毎日…あっ、それなら心当たりがあります。」


「遂に正体を表したな!」


「陛下、落ち着いてください。ではレイラ様、おそらくその毎日来ていた子供を監禁していましたか?」


「いえ、毎日ある時間になると自分から来て店じまいになると帰っていきました。」


「…では余と過ごす時間より店で時間を潰すことを優先したと?」


「いや知りませんよ…。」


レイラはこの日初めて本当の意味での親バカを知った。

自身の手元から離れていくだけで誰かに誘拐されたと誤解し殺しにくるのだ。


(恐ろしい…。)


アベルに関してはもう先ほどから悟った様な顔をして明後日の方向を見ている。

こんな茶番に付き合わせて申し訳なく感じるレイラ。

未だレイラの言葉に納得できず殺気を漏らしている国王。

そんな国王に対しての処理を忙しそうにしながらこんなくだらないことで呼び出してしまった事実に申し訳ないと顔に出している執事。

まさにカオスである。


と、そこで扉が開く。


「あ、杖屋さんのお姉さんだ。」


国王の娘が参戦して来た。

執事が再び頭を抱える。

すると衛兵らしき男が大きな声を出す。


「も、申し訳ありません!止めても無理矢理入って来てしまい…。」


「おお娘よ!元気であるか!」


「パパうるさい。」


「ぐっ…。」


明らかに嫌われている王の姿を見てレイラは確信する。

最近毎日自身の店に来ていた理由はこの親バカから逃げる為なのだと。


「む、娘よ!それよりも聞きたいことがある!毎日そこにいる小娘の店に行っていたのは何故だ!」


「パパといるのがやだったから。」


「なっ…。」


王が膝から崩れ落ちる。


「なんということだ…。」


「パパめんどくさいもん。」


娘が追い討ちをかけてノックアウト。

王は完全に心が折れた。


一方、これを見ていたアベルとレイラの2人は…


((なんだこの茶番…。))


同じことを考えていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー国王は悪い人でもないし賢い人間なんですけど子供が関わると著しくIQが低下します。

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