第6話 失った者

レイラとアベルは帰りの道の途中だった。

しかし、2人は何も話すことなくただただ歩いていた。


(き、気まずい…。)


アベルは大切な者を失ったことはあるが失った者との話し方を知らない。

ましてや失った直後であって自身で手にかけてしまい、失った相手がフェンリルという神獣であったとか、経験している方がおかしい。

自身と同じ状況だったならば、「わかるよ」などと言えるのだが…と、考えたが、


(いや、それは違う。)


ここで考え直した。


(人が大切な人を失ってしまった時にかけるべき言葉はそうじゃない。失った人との関係は俺にはわからないし全く同じ関係の奴なんかいない。わかってはならないんだ。軽々しく共感なんかしてはいけない。その人たちにはその人たちの物語があってそこに踏み込んではいけない。)


なんと愚かなことを考えていたんだと自責する。

人の死に理解を求めてはいけない。

こんな当たり前のことを忘れかけていた。

だから、アベルは次の言葉をかけた。


「…レイラ。」


「何?」


「俺は正直、お前のことを知らない。お前と出会ってまだ1週間とちょっとだし今回フェンリルと一緒に戦った理由も利害が一致したからだ。」


「そうだね。」


「だからまあ無理にとは言わないんだが…その、吐き出したい言葉があったりぶつけたいことがあったら俺に当ててくれていい。俺が受け止めてやる。」


「…。」


「あ、いや無理にとはいわないがーー。」


「どうして?」


「?」


「どうしてそこまでしてくれるの?まだあって間もないし私にそこまでする義理はないでしょ?」


「え、ああ…理由かぁ。別に良心が痛むとかそういう同情からくるものではないんだが…泣いている奴がいたら俺はほっとかない主義なんでな。」


「…泣いてないよ?」


「さっきまで泣きじゃくってただろ。」


「むぅ…。」


レイラはほっぺを膨らます。


「それに、一応一緒に死線を掻い潜った仲なんだ。俺は一度旅を共にしたやつを基本的に仲間だと解釈するからな。」


「…優しいんだね。」


「別に。俺の自己満足だ。んで、吐き出したい言葉はあるか?」


「…ばか。」


「ん?」


「…フェンリルのばか。なんで先に逝こうとしちゃうの。なんで私といてくれないの。なんで、なんで…」


「…」


「なんで私を置いていくの?」


「…もっと、吐き出していいよ。」


「…なんで…」


話を聞いていたアベルは思った。

このレイラという女性を知る人が人里にほぼいない理由は怖かったからかもしれないと。

もしかしたら寿命の短い人間と関わるとすぐに死んでしまうことを恐れていたのではないかと。


(そんなことにも気づかずに…。)


アベルは日が暮れる空を見上げながらレイラに寄り添った。

ただこの時、見上げた空はひどく寂しい風景に思えた。

何か、大切なものをが抜けてしまった様な寂しい風景に…。


〜〜


「…王城からの呼び出し?」


「ああ…レイラだけでもなしにしようとしたんだが無理だった…。力及ばずすまない。」


「いや、それはいいけど…。」


フェンリルが亡くなって2日経った頃、アベルが再び店を訪れて来た。

そして、そこで伝えられた情報がこれだったのだが…。

レイラとアベルは冒険者ギルドにまだ報告していない。

つまり王城に呼び出される理由はこれとは違うものとなるということ。


「なんかしちゃったっけ…。」


「俺は割と会ってるからなんとも言えないけどなにやらかしたんだよ。」


「む、なんでやらかした前提なの。」


「いや、なんとなく…。」


だいぶ失礼な反応に不満を示しながらレイラは書類作業を終わらせる。


「それで、いつ行けばいいって?」


「3日以内に来ればいいそうだ。」


「じゃ、今から行こうか。」


「ああ…ああ!?」


レイラの予想外の言葉に驚きを隠せない。


「おま、心の準備とか…。」


「フェンリルに挑んだ人が今更何言ってるの。」


「それは…」


また話が違うだろうと言おうとする前にレイラが言葉を紡ぐ。


「それに、王様と会うことぐらい初めてじゃないし。」


「…会ったことあるのか?」


「あ、今代のじゃないよ。何千年か前に一回うちを訪ねて来て…。」


「その頃のレイラの家って…。」


「うん、ここからだいぶ遠かったね。」


レイラは相変わらず表情を変えずに受け答えする。

その様子に驚きながらアベルは思案する。


(王の方から尋ねてくる…?そんなことあるのか…?)


果たしてその時の王がアウトドア派で外に出たがりやだったのか。

いや、いくらアウトドアな性格をしていてもあそこ・・・に行くのはあまりに危険すぎる。

つまり、リスクを取ってでもレイラと会いたかったということ。


「…レイラ、お前って…」


「早く行こ。私もういつでも行けるよ。」


「早っ…。」


「めんどくさいことは早めに終わらせちゃいたいしね。」


「めんどくさいことって…。」


そうはならないだろうと思いながらアベルも自身が持っていた荷物を持ち直す。

幸い、王城から帰った足でレイラの店に立ち寄ったため王城に行くための用意はできている。


「…はぁ。じゃあ行くか。」


「ん。そだね。」


そうして2人は歩き出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

更新が滞ってしまい申し訳ないです。

これからは多分きっと週一ぐらいには出せるはずなので期待しててください。

あと、出すとしたら次から日曜日です、

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