第2話 魔導士 アベル

「失礼する。杖はできたか?」


「はい、完成してます。」


「おお!」


嬉しそうに先日修理を依頼した青年は駆け寄ってきた。


「!本当になおっている!」


「バッキバキでしたもんね。」


「ああ。まさか治るとは…。」


「直ってよかったです。」


レイラは相変わらず無表情で言った。

そして、次の言葉も無表情で言う。


「その杖が折れたのはフェンリルと戦ったからですか?」


「!」


青年は驚く。


「…分かるのか?」


「杖の傷を見れば大体。」


「マジか…。腕のいい杖職人はみんな全員そうなのか?」


「いや、多分私は特殊な方です。」


「自分で言うのか…。」


「独学でやっているので。」


「!独学…!どうりで…!」


青年はこの店主は相当の実力者だと感じた。


「君、名前は?」


「レイラ・オベール。貴方は?」


「アベル・ガルシア。」


少し間を空けて言い放つ。


「魔導士だ。」


「!」


魔導士。

それは魔法使いの上位互換。

大魔法を5つ以上使用可能な魔法使いを魔導士と命名する。

人間では6人存在する。


「アベルは何の目的でフェンリルを狩ろうとしていたの?」


フェンリルは山の神であり、風の加護を受ける神獣。

この世に2体と存在しないその希少性故に安易に殺してはならない存在でありながら人間への被害があまりに大きい為討伐命令が出されている。

しかしいくら魔導士といえど前衛職なしでフェンリルに挑むのは自殺行為。


「杖の傷跡を見るにこれは風の魔法ではなくフェンリルの爪を受け止めた拍子に折れてしまったものでしょう?つまりアベルはソロ討伐をしようとした。」


「…正解だ。」


「何故?」


「フェンリルを倒せば風の魔法を学べると思ってな。」


「馬鹿なんですか?」


「な、馬鹿とはなんだ。」


「何で魔導士がソロやってるんですか…。フェンリルは最低でも前衛がいないと話にならないでしょう?」


「フェンリルと戦ったことがあるのか?」


「いいえ。でも話した・・・ことならありますよ。」


「!?会話したことがあるのか!?」


「旧友ですので。」


「旧友…。それは、何というか…悪かったな。」


自身が殺そうとしていた相手がレイラの旧友だと知りバツが悪そうにするアベル。


「いえ、アレは死を望んでいるので。」


「死?」


「はい。『いい戦いをして死ぬ』ことが目標だそうです。」


「騎士精神…。」


「私はそういう騎士とかの精神はわからないので共感できません。」


「そうか…。」


「あ。」


そこでレイラは思い出したように言った。


「なんだ?」


「言い忘れてましたけどその杖作りが繊細なので3日後に点検にきてもらいたいんですけど…。」


「それは絶対か?」


「いえ、恐らく大丈夫でしょうけど一応です。その種類の杖は本数が少ないので。」


「なるほど。じゃあまた3日後に来るとしよう。」


「ありがとうございます。では、また3日後に。」


「ああ、また。」


そう言ってアベルは店を出て行った。

レイラはアベルが店を出て行ったことを確認すると少しフェンリルとの会話を思い出した。


〜〜


『いい戦いをして死にたい?』


『ああ、そうだ。俺は寿命なんざで死ぬようなつまらんことでこの長く生きた時を終わらせたくねぇ。』


『ふーん。』


『興味なさそうだな。』


『戦闘狂の考えなんてわからないし。』


『ガハハッ!確かにそうだなぁ。』


フェンリルは少し遠くを見ながら言った。


『俺は今まで死ぬほど面白ぇ奴を見てきてよぉ。あいつらは俺に殺される時幸せそうにしてたな。俺もアイツらみてえに逝きてぇんだよ…。』


『…やっぱり理解できない。』


『ガハハッ!それでいいんだよ。お前も気が向いたら俺を殺しに来い。大人数で来ても1人で来てもいつでも相手してやるよ。』


『…貴方強いから挑む時は国ごと巻き込もうかな…。』


『ガハハッ!それも面白そうだなぁ!』


〜〜


今となっては懐かしい会話だと思うレイラ。


(久しぶりに会うのもアリかも…。)


と、そこでその考えがダメだと思った。


(アイツ次会う時は殺す時とか言ってたな…。)


やはり戦闘狂の考えは到底理解できないと再確認するレイラ。


(…殺しにいってあげるか。)


このまま放棄してたらいつまで経っても死ななそうなのでそう考える事にしたらしい。


(次会う時にアベルに一緒に殺しに行くか誘おうかな…。)


この考えが思いついた時にはもうアベルは帰ってしまっていたので少し残念そうにする。

と、そこでチリンッと扉が開く。


「ああ、今日も来たの?」


「…うん。」


相変わらず無口だと思いながら杖の注文の確認をしようとしたところでふとこの子の名前が気になった。


「ねえ、貴方名前は?」


「…秘密。」


「秘密か…。」


予想外の回答にレイラは押し黙る。

何故この子は名前を言いたくないのか少し気になったがこれ以上詮索するこの子が機嫌を悪くしそうなので聞くのはやめておいた。


「…やるか。」


そう言ってまたレイラは仕事に戻った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


無口なキャラを書くことが予想以上に難しくて苦戦中。

コミュ障のキャラなら自分と似てるから書きやすいのに…。

魔導書についての説明は…次回で。

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