はっきりと残る幼馴染の感触
「私、これ気になってたんだ」
ショッピングモール併設の映画館。
桃ちゃんがポスターの中から指さしたのは、少し前に公開されたばかりの恋愛もののアニメ映画だった。
わたしも知ってるやつだ。
この前、わたしの好きな配信者がすごいおすすめしていたのでちょっと興味はある。
「あっ、これ彩も前に言ってたよね」
タイトルを見てあかりがぽつり。こういう映画とかあまり見ないイメージだけど、よく覚えてるな。
「うん、SNSでも評判良いみたいだよ」
「美弥も、流れてきてるの見たことある。桃、見る?」
美弥ちゃんはチャンスとばかりに桃ちゃんにぴったりくっつく。
うーん、しまった。
こうなると美弥ちゃんと桃ちゃんを引き剥がすのは難しい。
あかりが『映画よりも、みんなで水着見に行こうよ』と強く言うかなと思ったのだけど。
あかりも、強引に行き過ぎると美弥ちゃんの気分を害するかもしれない、ぐらいの自覚はあるのだろう。
まあ、だからこそわたしに協力をお願いしたわけか。
『ねえ彩、どうするのこれ?』
と、まさにそのあかりからスマホで個人メッセージ。
『ごめんって。でもあかりもわかるでしょ。こうなっちゃったらあの2人は引き離せないって』
ちらりと横を見ると、あかりが若干不機嫌そうな顔。
『それに、この映画も面白いらしいし。あっ、せめて美弥ちゃんの隣に座らせてあげるから』
あかりの顔は明るくならない。
わたしだって、あかりが残念がるのは見たくないけど、こればかりはもう仕方ない。
うん、決めた。
ここまで来たら、午後はあかりにはちょっと我慢してもらおう。
『午前中みたいに上手くは行かないって。1日中服選び続けるのも不自然でしょ?』
スマホ画面を見て、あかりはため息。
そして、力なく一言。
「じゃあチケット買いに行こうか。次の回、まだ空きあるみたいだし」
ふう、あかりも納得してくれたようだ。
わたしとしても、あかりと映画館で映画を見るなんて初めてだ。ちょっと楽しみである。
座席は結構満員に近く、わたしたちの取った席も結構スクリーンから遠めの席。
わたし、あかり、美弥ちゃん、桃ちゃんの順で真ん中あたりに並んで座ると、すぐ上映が始まった。
恋愛ものだと思ってたけど、ちょっとファンタジー要素もあったみたいだ。
戦闘シーンはかなり迫力がある。画面奥から一直線に飛んでくる光の玉。
「わっ!」
それに合わせてピカッとスクリーンが光る。
不意打ちを食らって、思わず動くわたしの右手。
「おっと」
その途端、柔らかい感触。
なんだろう、ぷにぷにしてるけど、触ってて気持ちいい……
「……彩、もしかして怖い?」
あかりの声にわたしはハッとする。
「あっ、その、えっと……」
思わずしどろもどろになってしまう。
だってこの感触、あかりの身体だ。
多分おしりから足の付け根のあたり。
場所的にそうとしか考えられない。
「確かにこの話、悲劇の感じがするもんね。でもあたしの席まで手を出されても……」
今度はわたしの右手がなにかに掴まれる。そして、そっと肘掛けに置かれる。
って、これあかりに手を掴まれてるんだ。
幼少期からギターやベースに親しんでいたから、普通より少しゴツゴツしてるあかりの手のひら。
思えば、あかりに手を掴まれるなんていつぶりだ?
「ああ、大丈夫よ大丈夫。ほら、もう戦い終わったから」
何考えてるんだわたし。せっかく見に来たんだから、映画に集中しないと。
「あー、面白かったね彩ちゃん!」
エンドロールが流れ終わり、立ち上がった桃ちゃんがつぶやく。
「ああ、うん。終盤結構どんでん返しもあったし」
その通り、映画はとても面白かった。今日観に来て良かったかもしれない、桃ちゃんには感謝だ。
だけど。
わたしの右手には、あかりに掴まれた感触がまだはっきり残っている。
もう、さっきから何を気にしてるんだ。
マイクロビキニといい、どうしたわたし。
あかりや美弥ちゃんのお願い、桃ちゃんの好きな人とか考えてるうちに頭が変になってしまったのか?
「あかり、どうだった?」
「うん、まあ良かったね。お客さんがたくさんいるのも納得」
「美弥も、面白かった。桃、勧めてくれてありがと」
あかりや美弥ちゃんにも好評だったようだ。
周りの人からも満足そうな声が聞こえる。
おっと、落ち着いている場合じゃない。
わたしは出口に向かいながらスマホで美弥ちゃんにメッセージを送る。
『美弥ちゃん、あかりはわたしが見てるから、桃ちゃんと好きなところ行っていいよ』
そして思い切って、あかりの右手をぐっと握る。
「彩? どうしたの?」
「いや、この映画館って上映終わった後の出口がすごい混むから。はぐれないようにしないと、美弥ちゃん……ってあれ?」
わたしは振り返ってわざと声を上げる。
たまたま桃ちゃんが動き始めてたのか、美弥ちゃんが誘導したのか、桃ちゃんと美弥ちゃんはすでに反対側へ向かって歩き始めている。
「ああ、とりあえず出たところで合流しようか」
「え、でも」
あかりの言葉に、目をつぶってわたしも歩き出す。
ごめん、あかり。
***
映画館の出口。
ようやくわたしとあかりが出てきたが、見回しても桃ちゃんと美弥ちゃんの姿はない。
『美弥ちゃんどこ? まだ出られてない?』
すかさずあかりがグループチャットに書き込む。
「もう、はぐれちゃったじゃん。どうするのよこれから」
「ごめん。やっぱり無理矢理にも美弥ちゃんを引き止めて4人で出てくるべきだった」
わたしは軽く頭を下げる。
あかりにはっきりと断りを入れず、かつ美弥ちゃんと桃ちゃんを一緒にする方法。
混雑する映画館の中でそれを実現するにはこれしか無かった。
あくまでもわたしがミスをしたことにする。
といっても、それでも長くは持たないだろうけど。
だって、あかりが明らかに不機嫌なんだもの。
わたしだって、こんなあかりの顔見たくはなかった。
なんとかしてあげたい。
でも、美弥ちゃんにも協力してあげたい。
「彩ったら、そういうとこだぞ。普段の練習でもそうだけど、詰めが甘いというか」
「何よ、急に上から目線で」
はっと気づくと、あかりの顔が再び眼前にあった。
その途端、さっきの手を掴まれた感覚が蘇る。
そういえば、学校に気乗りしないあかりをわたしが引っ張っていくってことはあったけど、わたしがあかりに引っ張られる、というか手を掴まれるってことは無かったな。
どうしてあんなに、気持ちよかったのだろう。
「あっ、桃ちゃんから連絡来たよ。『2人で水着屋さんに行くから、そこで合流しよう』だって」
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