ひなの巣立ち。

笛路

 

 ひなまつり、それは女の子の健やかな成長や幸せを願い行われる祝いごと。元来は中国の行事だったとかなんとか――――。


「パパ、話が長い! 締めて!」

「ちょっ、まだ謝辞の途中……」


 三月三日産まれの娘が、三月三日に結婚式を執り行った。誕生日でもあり、ひなまつりでもある今日だからこそ、その思いの丈を話そうと思っていたのに。隣にいたママにマイクを取り上げられてしまった。

 ママは娘の味方だ。そして、私の立場は弱い。

 今日この時こそが私の一番の見せ場であり、娘を感動の渦に巻き込み、号泣させるチャンスだったのに……!


「もぉ……」


 ママが私から取り上げたマイクを娘に渡した。すると会場内のライトが落ち、マイクを持った娘にスポットライトが当たった。次いで、私たち夫婦にも。


「――――パパ、ママ、ここまで育ててくれてありがとう。初めはね、ひなまつりと同じ誕生日なんて嫌だった。『ひな』って名前も嫌だった」


 そうだったな。

 五歳くらいまでは、ひな飾りを見ては怖いと泣いていたな。

 曾祖母からのプレゼントだからと、着物を着せようとすると暴れたり、誕生日なのにちらし寿司とひなあられなのかと不貞腐れられていたな。

 うん、懐かしい。


「でもね、中学に入ってからだったかな? 友だちの家はひな飾りなんて出してくれてないし、着物を着せてお化粧してくれたりしない、羨ましい! って言われて、すっごく誇らしくなったの」


 あぁ、そうだそうだ。

 あの頃は、ママがギャル向けメイクとかを雑誌を見て練習してたっけな。娘にはどれが似合うかなんて聞かれたが、よく分からんと答えてはアイアンクローされてたっけ。


「パパは仕事が忙しいのに、三月三日は絶対に有給を取ってくれてたよね。夜には私が大好きなチョコケーキを用意してくれてて、『夢のホール食いだぞー』とか言って、私が残したぶんをパパとママで食べてくれてたよね」


 去年もやったが、今年は出来なかったなぁ。


「パパ、ママ、ずっとずっと大切に育ててくれてありがとうね。結婚するなら、この日しかないなってずっと思ってた。ひなは今日巣立つけど、時々は戻って甘えてもいいかな?」

「づゔぁうぅっ……ゔん」


 想定外だった。

 号泣させられてしまった。


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