よく落ちる消しゴム

ナナシリア

第1話

「滑らない恋バナ、っていうのがあるんだよね」


 飲み会のノリで、僕たちは一人ずつ滑らない話をしていた。


 僕の番がやってきて、注文用紙にオーダー内容を書きつけながら、高校時代のことを思い出して語る。




【よく落ちる消しゴム】


 いかにもありそうな商品名だが、騙されたと思って買ってみる。


 消しゴムを集めること。それが僕の趣味。


 超大手メーカーの消しゴムから、よくわからないおもちゃの消しゴムまで。往古今来、あらゆる消しゴムを、買い集め、そして試す。


 私見だが、今のところ一番使いやすいのは、サクラクレパスのアーチ。まだ不動の一位だ。


 それはともかく、例の【よく落ちる消しゴム】を家に帰って試してみる。


 ……跡が残る。これは、おもちゃ消しゴムを除けば最底辺とすら言えるだろう。よく落ちるとは、言えない。


「まあいいや。大翔はるとにも一応見せておくか」


 消しゴムを集めるという少し珍しい趣味だが……それでも僕には、志を共にする者がいる。それが、大翔。


 クラスメイトで、後ろの席の男子だ。結構イケメン。


 【よく落ちる消しゴム】を、大翔に見せるために鞄にしまって、僕は今日はもう寝る。




 翌朝、学校。


「見て、大翔。これ、【よく落ちる消しゴム】って名前の癖に全然落ちないの。ほら、跡残る」


「まあよくあるやつだな。この質で『よく落ちる』って表現はちょっと詐欺っぽいけど」


 二人で話していると、大翔の隣の席の女の子が学校にやってきた。


「二人とも、おはよう。今日も仲良いね」


 微笑ましげに僕らを見る彼女は、はな。僕は密かに、彼女に想いを寄せていた。


 彼女はてきぱきと朝の用意を済ませると、なにかに気づいて溜息を吐く。


「ごめん大翔くん、消しゴム持ってる? 忘れちゃって……」


「悪い、今日は予備持ってない……祐樹ゆうきは?」


 そこで僕に話が来る。


「いつものやつの他には、例の【よく落ちる消しゴム】しか持ってない。これなら別に貸せるけど……」


 いつも使っているアーチは、不運なことに使いやすいとは言えない大きさだった。これだったらもしかしたら【よく落ちる消しゴム】の方が消しやすいかもしれない。


「ごめん、じゃあそれ貸してくれる?」


「うん」




 授業中、華の机から消しゴムが滑落。大翔が拾う。


 落ちる。拾う。


 落ちる。拾い。


「ねえ大翔、もしかしてこれって……」


「机から【よく落ちる】ってこと?」


 そんなわけない、馬鹿にして笑う。


 しかし、あまりに落ちる。毎分机から落ちているような……。


「ほんとごめん、ありがとう大翔くん」


「まあ大したことじゃないし」


 ふたりは自然に笑い合う。


「なんか今日、華とよく喋るね」


 後ろを向いて大翔に話しかける。


「消しゴムのおかげで距離が縮まったんだろうな」


 大翔はたぶん、僕が華のことを好きだと知らない。


「ふうん」


 興味なさげに相槌を打つ反面、少し怖かった。大翔が華と付き合ったりしてしまいそう。


「華、結構好きかも」


 大翔が隣を見ながら小声で告げる。なんなの、綱渡りが好きなの?




「で、華と付き合ったってわけ。まさかあっちも俺のこと好きだったとはね」


 話を聞く心の中は、嫉妬心でいっぱいだった。このまま関係を続けられそうになくて、僕は無言で教室を後にした。


「おい、祐樹? おーい!」




「で、僕と大翔の関係は綺麗さっぱり消えたってわけ。消しゴムだけに。綺麗にオチたでしょ? 【よく落ちる消しゴム】だけあって」


 酔っぱらった男たちが爆笑。僕は注文用紙に書き損じた文字を、【よく落ちる消しゴム】で消した。

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よく落ちる消しゴム ナナシリア @nanasi20090127

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