三月三日が誕生日の女の子の話

先崎 咲

ひな人形の微笑み

 小さい頃、緑色のひなあられが苦手だった。多分、野菜や抹茶のようなのイメージが緑色にあったからだと思う。


 春野はるのひなた、中学三年生。高校受験も終わり、あとは卒業を待つばかり。

 親は未だにこの時期になると、ひな人形を出す。子どもの頃はまつりだから、ひな(これは私のことだ。子供のころは自分のことをと呼んでいたのだ)の日だ、なんてはしゃいだものだった。

 でも、もう私はひな人形にはしゃぐ子供でもないし、正直我が家のひな人形は大きく場所を取るので邪魔だ。けれど、私の誕生日も三月三日で毎年の誕生日の記念写真にはひな人形が写っている。


 だからある意味、誕生日のおやつはひなあられで、誕生日ケーキとの写真をひな人形の前で撮るという流れが自然だと思っていた。ケーキの上にはマジパンで出来たお雛様とお内裏様が乗る。なんとなくそういうものだと考えていた。


 でも、今年は違った。


「今年、ひなたは受験生だったじゃない? せっかくだからお誕生日祝いと合格祝いを兼ねて、ちょっといいレストランに行きましょう」


 そう提案したのはママ。いいな、と思って頷いたのは自分。だから別に、ちょっといいレストランに行くことは変なことじゃない。変なことじゃないけど……。


 いいレストランに行く準備とかでひなあられが食べられなかったことも、運ばれてきた誕生日ケーキにひな人形が乗っていないことも、普通の人からしたら変なことじゃない。変なことじゃないけど……。


「ヘンな感じ……」

「ひなた、どうかした?」


 ママが心配そうにこちらを見た。私の手はフォークを持ったままケーキの前で止まっていた。メッセージプレートには『ひなたちゃん 誕生日おめでとう』の文字。


「なんでもない」


 そう言ってケーキを頬張った。口の中はイチゴとホイップクリームでいっぱいになる。


「そう? ……ひなたは小さい頃に、ひなまつりの人形が乗ったケーキがいい~って駄々をこねたこともあったのにねぇ」


 大きくなったものね、と感嘆の息を吐くママ。


「もしかして、毎年ケーキの上にひな人形のマジパンが乗ってたのって……」

「うん、ひなたが好きかなってケーキ屋さんに毎年お願いしてたの」


 衝撃の事実だった。たしかに、人形が乗っているケーキなんて誕生日以外だとクリスマスのサンタクロースしか見たことが無いかもしれない。


「じゃあ、これが普通の誕生日ケーキ……」


 なんか、寂しい。それは多分、ひな人形が上に乗っていないから。ただ、それだけなのに。

 レストランからの帰り道。考えていたのは、去年までの誕生日のことだった。


 次の日、スーパーには時期を過ぎたためか、安くなったひなあられがあった。ママに頼んでまだ片付けてないひな人形の前に座ってひなあられを食べる。はじめに食べたのは緑色。昨日のケーキには存在しない色。


 それだけで、一日遅れだけど、誕生日という感じがした。ひな人形は毎年のように微笑んでいた。

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三月三日が誕生日の女の子の話 先崎 咲 @saki_03

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