人が雛人形になってしまう町
つばきとよたろう
人雛人形
「もう少し白粉を濃くした方がいいじゃない」
四十代の化粧師が手慣れた手付きで平たい刷毛を、さざ波が寄せては返すように上下させ、若い女の顔に白粉を塗っていく。
「そうですね」
若い女が言った。
「あら奇麗になったじゃない。お雛様だもんね。お内裏様の方は、どうかしら」
若い男が奇麗な着物を着て、澄ました顔で鏡の前に座っていた。既に白粉を塗って、頭には雅な被り物を載せている。二人は町人の中から厳選されたのだ。二十歳の男女二名が対象だった。二人はこの決定に従わなければならない。
「まあ、いい男に仕上がったじゃない」
化粧師のお世辞も満更ではなかった。
「ようし、お雛様の方も終わったわね。いいわね」
他に三人官女や五人囃子の準備は、すっかり終わっていた。この後、お内裏様、お雛様、三人官女、五人囃子が揃って食事を摂った。三人官女が食べたのは、どこかの料亭で出されるような日本料理だった。五人囃子は肉汁の滴るステーキだった。お内裏様は牛丼で、お雛様はフライドポテトにハンバーガーだった。それは、彼女らが最期に食べたい食べ物だった。その料理の中には、体を人人形に変える薬が入れてあった。彼らは、その事を知らない。自分の身に何が起こるかは知らされていなかった。もし知っていれば、暢気にその料理を食べたりしないはずだ。
「ポテトの御代わりお願い」
「こんな刺身食べたことない」
彼らは料理を楽しんだ。好物だったし、彼らの舌を満足させるほど美味しかった。食事が終わると、彼らはすぐに繁華街に設置された雛壇に赴いた。雛人形のように荘厳に並んだ。これから人人形として、町の繁華街に飾られる。町の多くの人が、人人形を一目見ようと集まった。町の大勢の人が、彼らを見に来た。彼らは誇らしかった。町は人で賑わった。
「よっ、お内裏様」
「よっ、お雛様」
人々は人雛人形を見て掛け声を掛けた。
「三人官女も素敵だわ」
「奇麗だね、本当」
「本当に美しいこと」
本物の雛人形に負けないほどの見事な人雛人形だった。この世のものとは思えないほど美しかった。しかし、その代償として彼らは三月三日が終わると、命を失ってしまう。花が萎れる前に美しいように、命の炎を燃やすのだ。
人が雛人形になってしまう町 つばきとよたろう @tubaki10
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