没落貴族の糸魔剣 不遇魔法〈糸〉しか使えない僕は、あの手この手で学園最強!?

加藤るふ

第1話 破綻する少年

「アルくん。君の魔力特性は……〈糸〉だ。」

「えっ」


 ――ケージド王国、辺境の地〈エレア〉。

 その領主、ヴィア・バスカーの長男アル・バスカー。それが僕だ。

 9歳の誕生日を迎えたその日、僕の人生設計は破綻した。


「〈糸〉?イトってなんですか!?相伝の特性は〈加速〉でしょう!?」


 事態が飲み込めず、思わず声を荒げる。何かの間違いじゃないのかと、魔力鑑定士に掴みかかり詰め寄る。

 

「まぁ落ち着いてくださいなアルくん。稀にあるのですよ、こういう事がね」

 

 立派な白いヒゲをたくわえた老人はこちらの手を軽く振りほどき、なだめるように話してくる。こっちの気も知らないで!

 "魔力特性"、要はどんな魔法が使えて何ができるのか、その指標だ。カンタンな話、魔力特性が〈炎〉ならそれが示す通り炎を自在に発生させ、操る事ができる。僕はそれが〈糸〉だっただけの話だが、僕にとってでは済まない。

 僕は物心ついた時には、訓練用の木剣を握っていた。何しろ、断絶寸前の魔法剣士の家系に生まれた待望の男児だったのだ。

 相伝の魔力特性は〈加速〉。目にも留まらぬ高速で剣を振るい、また自らも戦場を駆け回る。『疾駆けはやがけのバスカー』と謳われた由緒正しい剣士の家系だ。そのかつての名声から今も辺境の地を治める事が出来ている。そんな家を継ぎ、また家を再興させる為、それはもうたくさん稽古をした。テーブルマナーから、魔力の操作に剣の扱い。家の名に恥じない、当主に相応しい振舞いを徹底的に叩き込まれた。

 辛い日々だったが、それでも家を継ぎ剣士として名を挙げるという目標は、僕の誇りであり、家の希望でもあった。それが嬉しくて、鍛錬を頑張ってこられたのだ。

 それがなに?魔力特性は〈糸〉?なんだそれは。我が家の、バスカー家の相伝の魔力特性は〈加速〉だ。何かの間違いであって欲しい。何処から湧いてきたんだこの〈糸〉は。なぜ?何故?ナゼ?思考がクエスチョン・マークで塗りつぶされる。

 ああ、これは夢だ。それもかなりたちの悪いやつ。早く覚めてほしいものだ。

 

「なんて……ことなの……」


 そんな僕の夢想を掻き消すように、声を洩らしたのは母であり、バスカー家当主であり、エレア領主のヴィアだ。当然だろう、家を継ぐと思っていた期待の息子はその大前提、相伝の魔力特性を持っていなかったのだ。

 

「か……母様……」

 

 必死に声を絞り出す 何か、何か言わないと。

 

「おーっアイレちゃん、君の魔力特性は〈加速〉だねぇ」


 なんと空気の読めない奴だろう。鑑定士は混乱する僕と母に追い打ちをかける様に、衝撃の事実を言い放つ。アイレというのは8歳の妹だ。

 どうやら僕のと思ったらしく、アイレも特性の鑑定を受けていたようだ。

 クエスチョン塗れの頭が、どうにか思考を紡ぐ。

 つまり、家を継ぐのは、継げるのは。

 

「アイレ……?」

 

 ぽつりとつぶやいた母と、キョトンとした妹をよそに僕の口からは

 

「くくく……ははは……」

「あははははははははは……!!!」

 

 乾いた笑いが、目から涙が、溢れる。

 

 その日、僕の夢は 目標は 人生設計は 破綻した。

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