【完結】気付いて欲しかった緋山さんは、俺が叶えたいことを知らない

月那

第1話 よく分からない緋山さん


 春。高校に入学してニ週間ほど経ち、新しい環境やクラスメイトにもだいぶ慣れてきた。そう思えるようになったそんなある日、俺はクラスの女子に、体育館裏に連れて来られていた。



「俺と付き合ってくれないかな」

「えっと、ごめんなさい…」

「どうして?他に好きな奴でもいるの?」

「そういうわけじゃないですけど、今は誰かと付き合うとか、そういうのは考えられないというか…」

「そっか」

「はい。すみません…」



 そう。この場所で俺は告白されているのではなく、告白現場を見せられている。

 たった今、イケメン男子から告白されて断ったのは、同じクラスの緋山楓ひやまかえでさん。スラッとしてスタイルもよく、艶のある綺麗な黒髪をハーフアップにしている。

 彼女は明るくて、誰に対しても分け隔てなく接し、見た目もかなり可愛いということもあって、既にクラスでも人気者になっている。もう、モテる女子だというのは間違いない。

 そして告白してた男子は、サッカー部の先輩らしい。こちらも女子にはかなりの人気で、隠れファンクラブもあるとかないとか。



 どうやら告白は終わったらしく、二人は別々に離れて、この場から立ち去って行く。


「はぁ…終わったか」

「だねー」


 そんな彼女の告白現場を、何故俺がこそこそ隠れて見ているかというと、彼女の友人に声をかけられ、半ば強引にここに連れて来られたからだった。


「なあ、やっぱ、こういうのってよくないんじゃないの?」

「だって、あの先輩、女癖悪いっていうし、心配だったんだよね」


 え?ファンクラブあるのに?


「そうなの?」

「うん。寄ってきた女の子、取っかえ引っ変えしてるって」

「まじかよ…」

「まじだよ」

「そりゃ心配にもなるね」

「でしょ?」


 どうやら、俺達男子には出回らない情報があるらしい。それより、入学してたった二週間で、もうそんなルートが出来上がってるわけ?女子って凄いな。


「それに、箕輪みのわくんだって心配でしょ?」

「まあ、そうと知ってれば心配したかな」

「知らなかったら?」

「別に心配してないと思う」

「わ、冷た」

「だって、緋山さんが決めることじゃん」


 そう。誰を好きになって誰と付き合うかなんて、本人の自由だろう。


「ほら。俺達も行こう」

「分かったよ~」


 まあ、変な男に引っかかるのは駄目だと思うけど、そうじゃないなら、本人達が幸せなら、それでいいんじゃないかな。


 俺はそう思い、昼休みも終わりそうなので、二人で急いで教室に戻った。でも教室に入るなり、なんだか刺すような視線を感じたんだけど、なんだったんだろう…




 放課後。


 今日からは部活が始まる。

 俺は中学からの親友で、同じクラスになった堀宮拓斗ほりみやたくとと一緒にバスケ部に入ることにしていて、二人で教室を出ようとしていた。


亮介りょうすけ、行こうぜ」

「ああ、分かった」

「あの、ちょっといい?」

「ん?」


 声をかけてきたのは、緋山さんだった。


「どうかした?」

「堀宮くん、すぐ終わるから、ちょっとだけ箕輪くん借りてもいい?」


 そう言った緋山さんの目は、何故か座っている。普通に怖いな…


 拓斗は「ああ、いいよ」と言って先に行ったので、俺と彼女は教室を出て、あまり人のいない渡り廊下に来ていた。


「で、何か俺に用でもあった?」

「…お昼休み、奈穂と何処行ってたの?」

「ん?」


 彼女が奈穂と言っているのは、今日の昼休みに一緒に告白現場にいた彼女の友人、佐々木奈穂ささきなほさん。


「佐々木さんと?」

「そう。何処行ってたの?」

「い、いや、何処も行ってないって。たまたま同じタイミングで教室に入って来た、ってだけだって」

「ふーん。そーなんだ」


 めっちゃジト目じゃん。これ、嘘だってバレてるな。というか、あの視線は緋山さんだったのか?


「それで、話はそれだけ?」

「まあ、そうだね」

「それじゃあ、悪いけど部活行くから」

「分かった」


 俺はこのまま別れて、体育館に行こうとしたんだけど、フッっと彼女が近付いてきて、耳元で囁くように言った。


「ふふ…頑張ってね?」

「ちょっ…近いって…」

「あはは。じゃあね」



 悪戯っぽくニシシ、と笑うと、彼女はそのまま行ってしまった。


(な、なんだったんだ…びっくりした…)


 でも、今のその悪そうな顔、どっかで見たような気がするんだよな…




 なんだか分からない事が多いなと思いながらも、俺は体育館へと急ぐのだった。





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