ひなまつりのひな

花月夜れん

ひなまつりのひな

 私は3月3日が嫌いだった。どうしてかって?

 3月3日は私の誕生日。親は喜んでつけたんだろう。だけど、やめて欲しかった。だって、3月3日生まれの名前は中野陽菜なかの ひな。小さい頃は可愛いね。可愛いねと言われるくらいだった。

 小学校の低学年。ひな祭りだ。ひな祭りだと囃し立ててくる男の子がいた。そのせいで、私はひな祭りと呼ばれるようになってしまった。

 高学年でも、裏でずっとひな祭りの日のひなだと言われ続けた。

 もう慣れっこだから、私は笑ってやり過ごすようになった。

 中学校に入り、さすがに飽きたのだろう。囃し立ててくる男子はいなくなっていった。

 だけど、私の誕生日が近付くとあの時の嫌な気持ちがまた帰って来るのだ。


「おい、ひな祭り」


 もういないと思っていたのに、一番最初に言い出したアイツが私を呼び止める。


「いい加減にしてくれないかな。私の名前はひな。ひな祭りじゃないから」

「なんでだよ。ひな祭り生まれのひな祭りー」

「子どもみたい」

「なんだよ!! ひな祭りのくせに!」


 いつになったらこのひな祭りの呪いから逃げられるんだろう。泣きたい気持ちをなんとか押し込めキッとアイツを睨む。

 ニヤニヤと笑うアイツに一発くらわせてやろうか。


「へー、中野さんの誕生日ひな祭りなんだ」


 別クラスの秀才、垣田かきた君が私達の間に入ってきた。ああ、またか。こうやって仲間を増やしてまた私に呪いをかけるつもりなんだ。


「でも、ひな祭り生まれだからってあだ名で呼ぶのは禁止されてるはずだよ。何度も怒られてなかったかい? もし、いますぐやめると言わなければボクも君の事をこう呼んでやろう。お正月のショウ君」

「は? 何でだよ! つーか、何でオレの誕生日知ってるんだよ。気持ちわりぃ!」

「自分が標的にされたくなくて中野さんに狙いを向かせようとしていたんだろう。皆噂していたぞ。ボクはそれを止めていたんだ。キミのクラス委員長だからね。お正月君」

「やめろやめろ!! そう呼ぶな!!」

「なら、キミもやめないとだ。中野さんだって嫌な気持ちだったかもしれないだろう。自分がされて嫌な事は他人ひとにするなって教えられなかったのか? お正月君」

「ちっ! やめる。やめるからその言い方やめやがれ!」

「なら、中野さんに謝りなよ」


 一通り悪態をついてからアイツが走って逃げた。


「まったく、謝らずに行ったな。ごめんね、中野さん。すぐに助けられなくて。ボクがいる前ではずっと言わなくなっていたから」

「ううん、ありがとう。もうちょっと言われてたらアイツぶん殴って大事になってたかもしれないから。止めてくれて良かったわ」

「……ぶん殴」


 あははと笑われた。それから、垣田君とお話しした。

 垣田君も誕生日がイベントの日。クリスマスだそうだ。それでやっぱりいじられる事もあったみたい。


 三年後、私は3月3日が嫌いじゃなくなった。


「もうすぐ誕生日だね」

「うん」

「お互い覚えやすくていいね」

「そうそう忘れないよね」


 覚えやすい日で、覚えやすい名前で良かった。だって、大好きな人に覚えてもらえるんだもの。

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