ひなまつり?

駒井 ウヤマ

ひなまつり?

「ねー、ひなまつりー、ひなまつりー」

「あん?」

 何を言っているんだ、この甥っ子は?

 言われて気付いた。確かに今日は3月3日、ひな祭りの日だったな。朝のラジオでも聞いた気がする。

 だがな坊主、お前は一応は男の子だろう。雪洞ぼんぼりやら雛段飾りを眺めて、雛あられをポリポリしたいって年頃でもあるまい。

「ねー、ひなまつりだってー」

 分かった、分かった。それはもう分かったって。

 しかし、今日はツイてないなぁ。寒気は過ぎたって言われたから意気揚々と来たのに、今日に限って寒の戻りだなんて。まあ、出しなにはもうそこそこ寒かったからジャンパーをチャンと着てきたし、この坊主もキチンと着込んでるみたいだから寒くは無いだろうけど・・・って、おいおい、バタバタそこいらを走り回るんじゃないよ!こんな気温だから他に誰もいないけど、若し他の人がいたら今頃お前袋叩きだぞ、クソ坊主。

 しっかしまあ、もう5歳になるってのに落ち着きのないことで。そんなにバカみたいに走り回るなんて、よっぽど俺と一緒にいるのが退屈みたいなようで・・・って。あ、あ~そう、そうか、そうなるか。

「はいはい」

 そういうことかよ、チクショウ。確かにそういえば今日は、ずっとボウズだったしな。俺としちゃあ、こういう状況でボーっとしてるのも結構好きなんだがまあ、子供にとっちゃこの状況はそうだわな。

 しゃあない。汲み上げただけのバケツの水を湖面へとぶちまける。中にいたプランクトンたち、家へお帰り、なんてな。

 ランドセル背負って家に帰るミジンコなんてバカなことを考えながら俺は、椅子やらなんやらを片付けつつ甥っ子へと声をかける。

「おーい!」

「なに!」

 おうおう、嬉しそうな顔しちゃってまあ。俺に声をかけられたことか、片付けしてるのを見てか。まあ・・・後者だわなあ、コンチクショウめ。

 しかしよお、それにしてもそんな言い回し、一体どこで憶えたんだ?舌っ足らずの坊主にゃ、ちょっとばかし難しい言い回しじゃないの。そんなのばっか覚えてっと、友達の輪から孤立すっぞ?

 などと益体も無いことを思いつつ、心の中で一句。


『ひなまつり?それを言うなら、ひまなつり(暇な釣り)』


 ・・・おあとがよろしいようで。

 

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