3-2.甘えん坊
その日の夜、帰る途中、美羽はようやく元気を取り戻し、家に帰る準備をしていた。
一緒に帰る途中、美羽はちょっと顔を赤くして、何か言いたそうだったけど、結局何も言わなかった。
あの弱々しい表情は、きっと無意識だったんだろう。
でも、俺はやっぱり気になっていた。
美羽があんなに弱さを見せたのは、初めてだった。
(……でも、もう大丈夫なんだよな。)
自分に言い聞かせながらも、帰り道を歩いていた。
「悠斗……」
美羽がふと俺を呼ぶ。その声に、何故か胸がきゅっとなる。
「ん?」
「ありがとう……心配してくれて、ほんとに。」
その言葉が、妙に優しくて、心に響いた。
「別に……俺が当たり前のことしただけだし。」
でも、どこかで嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。
美羽のために何かできた、という安堵感。
美羽は少しだけ笑顔を見せてくれたが、その後、急に真顔になった。
「……でも、もう無理しないでね。」
その言葉が、俺の胸に重く響いた。
無理しないで、って言われたって、実際に美羽が無理しているのをどうすればいいのか、俺はまだ分からなかった。
「うん、わかってるよ。」
美羽が帰るまで、私はなんとなく気になって、しばらくリビングで過ごした。
それから夜が深まり、静かな時間が流れていった。
その日、美羽からの連絡はなかった。
いつものように元気にしているだろうか? それとも、まだ少しだけ体調が良くないのだろうか?
そう思いながら、俺は寝室に向かう。
少し眠くなってきた頃、突然、携帯が鳴った。
画面を見ると、そこには美羽からのメッセージが表示されていた。
「悠斗……ごめんね。ありがとう。」
そのメッセージに、俺は少し驚いた。
心の中で、美羽がまだ俺に頼りたいと思ってくれているという実感がわいたからだ。
俺はすぐに返信をしようと思ったが、また電話が鳴った。
「悠斗?」
美羽からの声が響く。
慌てて電話を取ると、最初は少しおどおどした声が聞こえてきた。
「悠斗……今、起きてる?」
「うん、起きてるよ。どうした?」
「なんか、寝られなくて……ちょっとだけ、話したくて。」
美羽の声が、少し震えているような気がした。
「寝られない?」
「うん……なんか、さっきは眠いと思ってたんだけど、急に目が覚めちゃって。」
その声を聞いて、俺はすぐに少し安心した。
美羽が本当に元気になったんだと。
でも、そこからはどこか心配そうな声が続く。
「悠斗、……もしよかったら、少しだけ電話してもいい?」
俺は少し驚いた。
美羽が、こんな風に頼ってくるのは本当に久しぶりだったからだ。
「もちろん、いいよ。」
俺はそのまま、ソファに座って、ゆっくりと美羽の話を聞くことにした。
その後、電話でしばらく話していたが、美羽は少し不安げに言った。
「悠斗、なんか、……私、こんなことを頼んでいいのかなって思ってたけど、やっぱり眠れなくて……。」
そのとき、美羽の声が少しだけ小さくなった。
どこか、甘えているような声だった。
その一瞬、心がドキッとする。
美羽が、こんな風に頼ってくるのは本当に久しぶりだったからだ。
「美羽、無理しないで寝ろよ。」
俺はついそんな風に言ってしまった。
その言葉を言った後、美羽は少しだけ黙った。
「……うん、ありがとう。」
その言葉が、まるで彼女の心からの感謝の気持ちが伝わるような気がした。
次の日、学校が終わった後、美羽からまたメッセージが届いた。
「昨日は、ありがとう。あれからすぐ寝られたよ。」
そのメッセージを読んで、私は少しだけ安心した。
けれど、心のどこかでまた美羽が頼ってくれるのを待っている自分がいる。
その日の夜、思わず布団に横になりながら、昨日の電話のことを思い返していた。
(……美羽、もしかして、あのとき寝てたのかな。)
美羽が話しているとき、普段よりも少しだけ甘えたような、照れたような、何かが感じられた気がした。
その顔が、心の中で浮かんできた。
「美羽……」
私はそのまま、目を閉じた。
夜の静けさの中で、美羽の匂いを思い出す。
あの、優しい香り。
(その顔が、もっと見たくて。)
美羽が、無意識に頼ってくれることが、こんなにも嬉しいとは思わなかった。
次は、もっと彼女に寄り添ってあげられるようになりたいと思った。
少しずつ、でも確実に——。
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